第二部 第十三楽章 ふたたび、ステージへ!
「ナッシュのイベント?」
ぼくの質問を、鶴さんが聞き返した。
夢竜の二階、いつもの練習部屋だ。
「波多津さんと木須さんが、ふたりで出るらしいです。……どんなイベントなんですか?」
ぼくの問いに、鶴さんはカレンダーを見ながら、
「……あぁ。"クラシックロック"か」
と、言った。
「クラシックロック?」
ぼくが訊くと、鶴さんは部屋の片隅に保存してあるフライヤーの束から、一枚をぼくに差し出した。
たくさんの演者、バンドの名前が書いてある。よく見るとその中には、鶴さんの名前もあった。
「それは三年くらい前のチラシだけど、内容は一緒だよ」
鶴さんが、咥えたタバコに火をつける。
「ナッシュってのは、佐賀でも老舗のデカいハコでな。そこに年に一回、佐賀、福岡、長崎あたりのバンドマンが集まるんだ。そんで、古いハードロックやらヘヴィメタルの曲を、いろんな奴らが入れ替わり立ち代わりで演奏する。いわゆるセッションイベントだ」
入れ替わり立ち代わり。
そんな複雑なイベント、リハーサルとかどうするのだろうか。
ぼくが質問すると、
「ベテランが多いからな。大体の曲は誰かが即興で演奏しちまうよ。どうしてもって言うなら、打ち込みのデータ持って行ってもいいし」
と、鶴さんが言う。
これに、あのふたりが出る……。
「ぼくら、出られますか?」
ぼくは、フライヤーを持ったまま、鶴さんに訊ねた。
鶴さんは、ぼくの目を見てニヤリと笑った。
「……実はな。もうエントリー済みだ」
「え?」
「ツェッペリン練習させたのは、これ目当てだってのもある。あとは、聖飢魔Ⅱを二曲くらいは演れる」
ぼくは、思わず息を飲んだ。
「秋祭りで出来なかったから、三人でやるつもりだったんだがな。……薫がこねぇから、キャンセルしようかと思ってたが」
秋祭り。
なんだか、ずいぶん前に感じる。
あの時は、入院していた波多津薫にだけ向けて、歌って、アンジェラスを弾いた。
生きて来た中で、初めて死にものぐるいになった。
あの熱量を、もう一度でも感じてみたい。
そして、もう一度、波多津薫に歌を聴かせたい。
「思ってる事がうまく伝わらねぇなら、歌で薫に聴かせてやれよ」
ぼくの心を見透かしたように、鶴さんが笑う。
「出ます」
ぼくは、真っ直ぐに鶴さんの目を見て言った。




