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第二部 第八楽章 凍てついた教室

 LINEを送っても、電話を掛けても、波多津薫からはなんの反応もなかった。


 そのまま、学校も夢竜にも、波多津薫は姿を表さなくなった。


 古賀と二里にも「そのうち出てくる」とLINEが来たきりで、それ以降、なんの連絡もつかないらしい。


 ぼくらが付き合っているのはふたりには内緒なので「実は昨日こういう事が……」と、相談するわけにもいかない。面と向かって謝りたいけど、前回のケンカとはまるで内容が違う。部長に頼って解決するような話でもない。


 ……そもそも、ぼくが、自分の気持ちを解らなくなっている。


 ぼくは、波多津薫が、好きだ。


 だけど、それは「女」だと思っていたから生まれた感情だと思う。


 実は「男」だと知ってから、正直に言って、前と同じように彼女を好きなのか……自分でも、はっきりと判らない。


 波多津薫が微笑んでくれると、ぼくも、微笑みたくなる。


 波多津薫が怒った時は、ぼくも、腹の中に熱い怒りの汚泥が溜まる。


 波多津薫が涙を流せば、ぼくも、なんだか鼻の奥がツンとする。


 波多津薫が手を握ってきたら、ぼくも、彼女の掌を握り返す。


 だけど、それらの行動が、本当に、彼女の性別を知る前と同じようにとれているのか、ぼくには、判らない。


「ただの女の子なら、こんな悩みは不要なのに」


 頭の片隅に浮かんだそんな言葉を、ぼくは、慌ててかき消す。


 昼休みになってもなんだか教室から動く気力すらなくて、ぼくは、昼食を摂るクラスメイト達の傍らで、机に突っ伏して昼寝をしていた。


 ……どれくらい眠っていたんだろう。なんだか教室がざわつく感じがして、ぼくは、目を覚ました。


「マジか波多津……」


「なんで、どうしたの?」


「え、何かあったの薫?」


 クラスメイト達が口々に放つ言葉たちが、寝ぼけた頭の中で回っている。


 教室の中ほどで、細身の男子生徒が取り囲まれている。照れたような、困惑したような、複雑な笑顔を見せる男子生徒の顔を見て、ぼくはギョッとした。


 真新しい男子用制服に身を包んで皆に囲まれて立ち尽くしているのは、間違いなく、長い髪を短く切った、波多津薫だった。

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