第二部 第四楽章 不穏な軽音部
その日。
ぼくたち軽音部は、放課後の音楽室で「老人ホームの慰問コンサート」に向けての練習に励んでいた。
加山雄三に三波春夫、美空ひばりに坂本九……。おじいちゃんおばあちゃん達なら誰もが口ずさめるような昭和の大スターの超有名曲を、六曲ばかり演奏するのだ。
みっつのグループに別れ、それぞれ二曲づつを披露する。
ぼくは、木須裕子と組まされて「王将」と「天城越え」を練習していた。……が、まあ、歌唱力のないぼくには、この歌は難し過ぎる。歌が上手い二里と古賀から厳しめに指導を受けながら、それでもなんとか懸命に練習していた。
「じゃあ、もう一回アタマから」
古賀が、そう言うのと同時に、いきなり、アンプからドスの効いたギターが鳴り響いた。
木須裕子だった。
年代物らしい、青の「ギブソンSG」を腰だめに構えて、エフェクターまでしっかり使って、原曲とは似ても似つかぬヘヴィメタルアレンジので「王将」の伴奏を弾いている。
……かなり上手い。
「はい! おふざけはそこまで」
古賀が手を打って、木須裕子の演奏を止めようとする。
「……先輩、聖飢魔Ⅱが好きなんでしたっけ」
木須裕子がいきなり手を止めて、ぼくに訊いた。
「う、うん」
ぼくは、思わず手元のアンジェラスを構え直しながら答えた。
「……わたし、大っ嫌いなんですよ。聖飢魔Ⅱみたいな“エセヘビメタ”」
ぼくを睨みつけながら、木須裕子が言う。
「売り出しの時だけヘビメタもどきで、売れてきたらポップス転向……。侮辱ですよね、ヘヴィメタルの」
「そ、そんな事ないだろ」
「あるんですよ」
ピシャリと、木須裕子が言い放つ。
「現に、解散したら個々では誰もヘヴィメタルなんかやってない。お仕事だからやってただけのエセヘヴィメタルバンドですよ」
「そ、それは……」
ぼくは、思わず口ごもる。
「裕子、あなたの考えは後で聞きます。今は練習の時間よ」
波多津薫が、木須裕子をたしなめる。
木須裕子は、無言でストラップを肩から外した。ギターの裏側に、白い星のステッカーがたくさん貼ってあるのが見えた。
「薫先輩にも、そのうちに本物のヘビーメタルってのを教えてあげますよ」
そう言うと、木須裕子は、勝手に音楽室を出て行った。
「なんだあいつ……」
古賀と二里は怒気をはらんだ声で、木須裕子が後ろ手に閉めたドアを見つめて、つぶやいた。




