第七楽章 地獄へ突撃!
ぼくは「狡決亜Ⅱ」の皆に混ざって、ライブハウスの入り口をくぐった。
中に入ると、薄暗くて細長い通路が右側に向かって伸びていた。両側の壁には、建物の表と同じく隙間ひとつないほどライブの告知やメンバー募集のチラシが貼られ、情報の大洪水が起きている。
そして、小さく漏れ聴こえる音楽。
「もうリハも終わって、開場を待つのみだから」
そう言うと、ハットの男の人が、映画館の物によく似たドアを「ぐい」と、引き開けた。
最初に視界に入ったのは、壁に書かれた巨大な「VELVET」という文字だった。
間違いない。波多津薫が演奏していたのは、このステージだ。ぼくの胸が、少し鼓動を速めたのがわかった。
店内では、大教典「WORST」がほどよい音量で流されていた。
学校の教室よりもいくらか縦に長いくらいの店内の片側。「VELVET」の文字の下に、マーシャル製のアンプやら、よくわからない調整器具、ドラムセットにモニタースピーカー等が整然と並べられている。
ぼくは、初めてみる生のライブハウスを、目を輝かせて見回した。
「あれ? 姫は?」
金髪の女の人が、なにやらの作業をしていたお店のスタッフさんらしきひとにそう声をかけた。
「あ、さっきセッティング終わって、楽屋に戻られましたよ」
店舗名がプリントされたTシャツを着たスタッフさんは、作業の手を止めずにそう答えた。
「あ、そう。……姫、マックでなんか買ってこなくてよかったのかな」
金髪の女の人がそう言うと、
「なんか、“ダイエット中だからだいじょうぶ”って言ってたよ」
と、ハットの男の人が言った。
それを聞いて、
「あれ以上、どこを減らすのさ……」
と、金髪の女の人が、自分の脇腹を軽くつまみながら言った。
皆が、大笑いした。
「さぁ。おれたちも準備に行ってくるよ」
そう言って、坊主頭の男の人がぼくの肩を掌で優しく叩いた。
「そうだね。変身しなきゃいけんから」
金髪の女の人が、笑ってそう続けた。
「もうすぐ開場だから。チケットの半券を持ってあそこに行けば、ドリンク貰えるからね」
金髪の女の人が指した方に、大量の酒瓶が所狭しと置かれたバーカウンターがあった。
「あの……。いろいろありがとうございました」
ぼくは、頭を下げてそう言った。
「まぁ、初のライブ、楽しんで行ってよ」
金髪の女の人は、ポンポンと、ぼくの頭を叩いた。
「リーダー、なんかないの」
ひとりでさっさと楽屋の方に向かっていたリーダーの背に、ハットの男の人が声をかけた。
数瞬の後、リーダーはクルリと振り返り、
「……地獄で会おう」
と、言った。
見事な、デーモン閣下の声マネだった。しかも、右手の指は「サタニックサイン」を作っていた。
「自分が先に、血圧で死にそうなくせに」
短髪の男の人が言うと、
「うっせ」
と、言い残し、リーダーは楽屋へ引っ込んだ。
残ったメンバーは、ぼくに手を振りながらリーダーの背中を追いかけて行った。




