第二部 第一楽章 宣戦布告!
冷たくて、強い風が吹いていた。
薄暗くて、じっと見上げていると、なんだか不安な気分になってきそうな空の下。ぼくは、ある人物に呼び出しを受けて、いつもの中庭で待ち合わせをしていた。
その時、部室棟への渡り廊下を、小柄な影が歩いてきた。
ぼくが立ち上がって、尻についた芝生の切れ端をパンパンとはたき落としていると、小柄な影は、ずんずんと一気に僕に近づいてきた。
「おまたせしました」
小柄な影……木須裕子は、ぼくの前に立つと、はっきりとした口調でそう言った。
きりりとした眉の下に、意思の強そうな大きな瞳。小さな鼻の下に、真一文字に結ばれた唇。肩のあたりでふたつに結んだ長い黒髪が、小さく寒風になびいている。
一学年下だけど、ギター歴は三年超。
青いギブソンSGを愛用し、様々なジャンルの曲を実に巧みに弾きこなす……。まぁ、はっきり言えば、ぼくよりもはるかに上手い。
そう。今日この場所にぼくを呼び出したのは、彼女だった。
「すみません高田先輩。急に呼び出したりして」
ぼくは、黙って首を横に振る。
「どうかしたの?」
ぼくが訊ねると、
「高田先輩に、訊きたい事があって来ました」
と、木須裕子は答えた。
まっすぐな、なにやら“力”のこもった瞳で、僕を見据えている。
「なに?」
ぼくがそう訊ねると、木須裕子は、ひとつ大きな深呼吸をした。
そして、こう言った。
「高田先輩と薫先輩は、付き合ってるんですか?」
ぼくは、思わず絶句する。
波多津薫とぼくが付き合っているのは、部長以外の学校のみんなには伏せてある。
「わたし、この間、見たんです。手を繋いで、駅前を歩いてましたよね」
しまった。
確かに、最近は少し油断しているところがあった。あれを見られていたのか。
「おかしいですよ。薫先輩はああだけど、男同士なんですよ」
くそ。
人が目を背けている現実に、ずんずん突っ込んでくるんじゃない。
「……好きなんです」
は?
一瞬なんのことかわからず、ぼくは思わずきょとんとした。
「わたし、薫先輩が好きなんです」
木須裕子が、静かに言った。
「わたしが、薫先輩をまともな道に引き戻しますから」
木須裕子はぼくの目を見据えてそう告げると、踵を返して、もと来た道を戻って行った。
吹いて来た一陣の風が、立ち去る木須裕子の髪を、バタバタと宙に泳がせた。




