第六十二楽章 届け、BRAND NEW SONG 。
曲の間奏、部長が弾く「真昼の月」のギターソロを聴きながら、ぼくは、額の汗を右手の甲で手早く拭った。
いつ聴いても、なんど聴いても。ぼくとは違い、安定感があって正確無比なプレイだ。
ぼくも、いつかこんな風になれるのかな。そして、波多津薫の演奏を、同じステージでサポート出来るのかな。
そんな事を考えているうちに、間奏が最後の盛り上がりに差し掛かる。
ギターとドラムとベースの音が、複雑に絡み合いながら一気に天空に登り詰めるような、そんな錯覚にすら襲われる、スリリングでテクニカル、そしてメロディアスな演奏だ。
そこに、英語詞で入る。
一緒にはいないけど、いつも、君を応援している。
一緒にはいないけど、いつも、君を見ている。
波多津薫に向けて、精一杯、心と力の両方を込めて歌った。
演奏が終わった。
会場からは、大きな、長い拍手が送られた。ぼくは振り返り、部長と、鶴さんと、リズム隊のふたりと笑顔を交わし合った。
この流れを、MCで切りたくなかった。
ぼくは深呼吸をすると、ギターをアルペジオで爪弾き始める。
五小節目から、部長と鶴さんのゆるやかなギターの音が、ぼくのギターの音に重ねられる。
十三小節目からリズム隊が加わり、一気に曲が疾走り出す。
さっきより、もっと速く。
さっきより、もっと力強く。
真紅のアンジェラスが、咆哮する。
どこかのサイトで読んだ。
この「BRAND NEW SONG」を発表する直前まで、聖飢魔Ⅱは、解散寸前だったらしい。
レコード会社との契約解除。
セールスの不振。
バンド内の軋轢。
様々な要因が重なって、もはや、最初に設定した「1999年の解散」を待たずして、終わりそうになっていた、と。
それを、この曲が救ったそうだ。
この曲の発表から、再びバンドは結束し、1999年12月31日の解散までを駆け抜けた。その原動力であった、と。
真偽のほどはわからない。だって、ぼくは生まれてもいないのだ。
だけど、この曲には、ぼくにだって思い出が詰まっている。
初めて、ギターを手にした事。
初めて、バンドを組んだ事。
初めて、女の子と本気でケンカした事。
初めて、人を本気で好きになった事。
人から見ればちっぽけな事だけど、ぼくには、大きくて、真新しい事ばかりだった。
だから、歌う。
ぼくだけの「真新しい歌」を、波多津薫に向けて。
その時、左手に鋭い痛みが疾った。
ぬるりとした血の感触が、ネックを握る手のひらに伝わる。血豆が、また裂けたんだ。
ぼくは、嗤う。
こんな痛みがなんだ。
波多津薫は、もっと苦しんでる。
閣下が、血を吐きながらでも歌うって言うのなら、ぼくは、血を流しながらでもギターを奏でるだけだ。
もっと。
もっと。
弾け。そして、歌え。
ぼくだけの、BRAND NEW SONGを。




