第六楽章 なんだか気のいい大人たち。
「へぇ〜! 若いのに感心だね」
と、年齢不詳の金髪の女の人は、ぼくの肩を平手でパンパン叩きながら、弾けるような笑顔で言った。
あの後、ぼくは勇気を振り絞り、
「聖飢魔Ⅱが好きで、たまたま、今日のライブを知ってここまで来ました」
と、言った。
すると、バンドのメンバーは途端に相好を崩し、快くぼくを迎え入れてくれた。
ハットを被ったメンバーさんが隣りからひとつ椅子を持ってきてくれ、テーブルに、ぼくの分のスペースが設けられた。
「なんでまた、聖飢魔Ⅱを聴き始めたの?」
ハットの男の人が、微笑みながらぼくに訊いた。
「えっと、YouTubeでたまたま観て」
ぼくが答えると、長髪の男の人が「今どきだな」とぼそりと言った。
「高校生?」
坊主頭の男の人の質問に、ぼくは頷いて答える。
「すげぇなぁ。ウチの娘と変わんないよ」
「そりゃそうでしょ。解散ミサ観にNKホールに行ったの、何年前だと思ってんの」
皆が、どっと笑った。
聖飢魔Ⅱの「本解散」は、1999年の12月31日。もう、二十年前だ。
いわゆる“古参信者”は、1984年のデビューから、三十年以上も聴き続けている事になる。ぼくが生まれるより、遥かに昔だ。
「昔は、子供に英才教育してたけどなぁ。車の中で“WORST”をヘビロテしたり。でも今は、ジャニーズばっかり聴いて相手してくれないけど」
「なに? 嵐とかTOKIOとか?」
「古いよ。今はいろいろいんだよ。キンプリとかSnowManとか」
「……全然わかんねぇ」
全員があちらこちらで勝手に話をしている。だけど、それが決して嫌な雰囲気ではない。
学校でも、たまに皆に混ざって話をする時がある。
その時は、曖昧に笑って、誤魔化して、なんとかその退屈な時間を砂に埋めるだけだった。
だけど、この人たちと話すのは、聞き役に回っているだけでもなんだか心地よかった。
年齢は倍以上のはずなのに、ぼくは、この人たちになにやら不思議な親近感を覚えていた。
「チケットは買ったの?」
金髪の女の人が訊いた。
ぼくは、首を横に振った。
「なら、ウチから買いなよ。五百円やすくなるから」
そう言って、女の人は傍のバッグを開き、一枚のチラシをテーブルに出した。
A4サイズのチラシには、ホッチキスで留めたチケットが着いている。ぼくは、それを手に取った。
「狡決亜Ⅱ 悪魔の黒ミサ」
と、大きく公演名が印刷してあり、その下に、集合写真と演奏写真が印刷されている。全員が、バッチリ「悪魔メイク」を決めて、ポーズを取り、演奏していた。
「あの……」
ぼくは、おずおずと口を開いた。
「すみません。バンド名は、なんて読めばいいんですか」
それを聞いて、長髪の人以外の三人が、一斉に笑った。
「“コピーバンドやる”ってなった直後に、リーダーが職場の定期健診で、医者に最初の注意を受けてさ」
ハットの男の人が言う。
「その話で盛り上がって、この名前になったんだよ」
坊主頭の人がどこからかボールペンを取り出して、さらさらっと、チラシに読み仮名を書き足した。
そこには「こうけつあつ」と、書いてあった。




