第五十五楽章 やっぱり気になる……
ぼくのスマホの画面を見て、全員が無言になった。
先ほどの、波多津薫とのLINEでのやりとりだ。
「波多津さんに、真昼の月を聴かせたいんです」
ぼくが言うと、鶴さんは、大きなため息をついた。
やっぱり、無理か……。
ぼくは、黙ってうなだれた。
「……どうっすか。いけますか?」
鶴さんが、いきなりリズム隊のふたりに訊ねた。
……え。
ぼくは、思わず鶴さんの顔を見た。
「いけるよ。何回か演奏してるし」
涼しい顔でそう答えると、狡決亜IIのふたりは、ぼくに向かって微笑んだ。
「大久保君は?」
続いて、鶴さんが部長に訊ねる。
「NEWSの収録曲なら、だいたい弾けますよ」
と、部長はうなずいた。
「よし……!」
鶴さんが、気合いを入れる。
「高田、お前のわがままに付き合ってやる。そのかわり、死ぬ気で練習するぞ!」
!
鶴さんの言葉に、ぼくは「はい!」と力強く答えた。
ギターを持って、立ち上がった。
***
ひと気の少ない夜の街を、ぼくと部長は、ふたりでゆっくり歩いていた。
ぼくらの他には、飲んだ帰りのサラリーマン風のグループが、ふたつみっつほどいるだけだ。
街のあちこちに「いまり秋祭り」のポスターがペタペタと貼ってある。
いよいよ、来週だ。
そう考えると、自然と、背筋が伸びる。
もちろん、不安はある。
だけど、それ以上に“自分はこれだけ頑張った”という、自信と自負があった。
まわりのみんなは手馴れたもので、なんの気負いも感じていないように見える。
それが心強くもあり、また“素人は自分だけ”という、心細さにもなる。
うじうじ悩んでも仕方ない。
ぼくは、考えるのをやめる事にした。
「GO AHEAD!」だ。前進するしかない。
「しかし、お前も大胆だな」
不意に、部長が呟いた。
ぼくは、部長の顔を見る。
「初心者なのに、本番の一週間前に、新曲に挑むとはな」
そう言って、部長は苦笑いした。
「波多津さんが、今、一番はげまされるって言ってたんで……」
ぼくが言うと、部長は「あぁ」と、短く答えた。
さすがに時間がなさすぎるという事で、追加した「真昼の月」に関しては、部長がリードギターを弾く事になった。ものすごく安定感のある演奏で、ぼくは安心してボーカルに専念できた。
また、ふたりとも無言になって歩く。
やがて、駅前の広場にたどり着いた。
「じゃ、また明日」
部長が、そう言って立ち去ろうとする。
「部長!」
ぼくは、その背中に声を掛けた。
部長が、ゆっくりと振り返る。
この機会を逃したら、もう、訊けないかもしれない。
ぼくは、肚を決めて、部長に訊ねた。
「……部長は、波多津さんの事を、どう思ってるんですか」
予想外の質問だったのか。
部長は、目を丸くして立ち尽くした。




