第五十ニ楽章 強力な援軍!
夢竜に着くと、なんだかいつもと様子が違っていた。
暖簾は仕舞ってあるのに、カウンター席に数人の人影があるのが、磨りガラス越しに見える。
(……急に、予約の団体さんでも入ったのかな)
ぼくは、おずおずとガラス戸を引く。
「おっ。来たな、少年!」
ぼくを見るなり声を掛けて来た金髪の女の人に、見覚えがあった。
「こ、狡決亜Ⅱの!」
ぼくが思わず声をあげると、そのまわりのみんなが、一斉にサタニックサインを決めて応えた。
長髪のリーダーも、ハットの人も坊主頭の人もいる。皆、変わらずに元気そうだ。
「え、今日は、どうしたんですか?」
ぼくが訊くと、
「ウチ、ギターボーカル三人だけだろ。なんと、今度の秋祭り、ドラムとベースをサポートでやってくれるってさ」
カウンターの中の鶴さんが、興奮気味にそう言った。
かつてぼくも「ベースとドラムだけ、なぜ打ち込みなんですか」と、訊いた事があった。
その時は「ウチは速い曲メインで演るから、下手なリズム隊なら機械のがマシ」と、鶴さんに答えられた。
だけど内心は、鶴さんだって生身のリズム隊が欲しそうだった。
ただ、鶴さんと波多津薫が求める技術水準を満たせて、なおかつ聖飢魔IIが好きなベーシストとドラマー……その条件を満たす人材は、伊万里近辺にはどうも見当たらない様子だった。
だけど、狡決亜Ⅱのふたりなら話は別だ。なんといっても、キャリアがその辺の人たちとは段違いなのだ。
「でさ。今から、急遽スタジオ借りて合わせてみる事になったから」
スタジオ!?
いつも、夢竜での練習がほとんどなので、初めての体験だ。ぼくは、少し興奮した。
「よし。じゃあ、移動しよっか」
金髪の女の人が言い、全員、一斉に動き出した。
ぼくも立ち上がろうとした。その時、突然、狡決亜Ⅱのリーダーが、無言でぼくの手首を掴んだ。
ぼくは、どうしていいかわからずに、黙って立ちすくんだ。
リーダーが、掴んだ手首を、自分の顔の前に持っていった。
ぼくの手のひらを、サングラス越しにじっと見つめた。
不意に、ぼくの手を握る力が緩み、元の位置に下げられた。
そして、さっきまで手首を握っていた手が、ぼくの頭に「ぽん」と乗せられた。
まるで幼児の頭を撫でるように、リーダーは、ぼく髪に触れた。
「頑張ってるな」
ボソリとそう言うと、大きな身体を折り曲げるようにして暖簾をくぐり、店の外に出ていった。
褒められた……。
呆然としてリーダーを見送るぼくの頭を、今度は、金髪のギタリストさんが優しく撫でていった。
それだけで、今までの努力が報われたような気分になって、ぼくは、思わず涙ぐんだ。




