第四十七楽章 気丈な別れ
翌日。
朝のホームルームで、担任の横に立った波多津薫の口から、早期癌である事と、しばらくの入院が必要である事が、直接、クラスメイト全員に告げられた。
教室は騒然となり、隣り同士で話し出す者、その場で顔を伏せて泣き出す者、席を立ち「なんで?」と波多津薫にすがりつく者……大変な状況になった。
「大丈夫だから!」
すがりついてきたふたりの女子の頭を撫でながら、波多津薫は毅然とした態度で言った。
「早期癌だから。普通に帰って来ます。また、一緒に遊んでください!」
そう言うと、ぺこりと頭を下げた。
担任が、掌を打ち鳴らす。
それに合わせて、教室中に拍手と励ましの声が広がる。
まるでギター演奏の後の様に、波多津薫は、皆の声に手を振って応えた。
彼女は、ずっと笑顔だった。一滴の涙も見せなかった。
最後に波多津薫は「またねー!」と皆にサタニックサインを見せながら、担任に連れられて教室を後にした。
ざわつく教室が少しずつ静けさを取り戻し、一限目のチャイムが鳴った。
昨日、トイレで隠れてタバコを吸っていたひとり、城先生が教材を抱えて、教室に入ってきた。
***
一限目が終わった後、軽音部の全員が、校門前に集まった。
もちろん、波多津薫の見送りのためだ。
「今から入院して、明日には手術します!冬休み前には、なんとか戻ってきます」
と、部員たちに向けて、波多津薫は気丈に言った。古賀と二里のふたりは、人目もはばからずにぼろぼろと涙を流した。
部長が「十二月には、復活ライブでもやるか」と提案し 、皆が拍手で応えた。
波多津薫が「いいね、それ」と笑った。
その時、校門から入ってきた一台の白いセダンが、ジャリジャリとタイヤを鳴らしながら、ゆっくりとこちらに近づいてきた。
波多津薫の、ご両親らしかった。
「よし。……では、行ってきます!」
そう言うと、波多津薫は後部座席に乗り込んだ。すぐに、窓がいっぱいに開かれた。
「じゃあね!」
波多津薫が笑顔で叫んだ。
軽音部の皆が、口々に別れと激励の言葉を告げた。
…… ぼくは、なにも言えずに、黙りこくったままだった。
波多津薫を乗せた車が、ゆっくりと学校を後にした。
ぼくたちは、遠ざかっていく車に向かって、千切れるほど手を振った。
ひんやりとした風が吹いてきて、ぼくたちの身体を撫でるようにして、通り過ぎた。




