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第四十三楽章 若者のすべては、白い奇蹟に。

「次で、最後の曲です」


 波多津薫の言葉に、客席からブーイングと落胆の声が起こる。それを聞いた波多津薫と部長は、顔を見合わせて苦笑いした。


「この曲は、歌ってた方が若くして亡くなった後も、残されたバンドメンバーや、その周りのミュージシャンのみんなが歌い継いでいる、素晴らしい曲です。ちょっと前の曲だけど、知ってる人は、一緒に歌って盛り上げてください!」


 部長のギターが、優しい旋律を奏でる。


「若者のすべて(フジファブリック)」と、モニターに表示され、小さな拍手が、ちらほらと客席から起こる。


 部長が、語りかけるように歌い始めると、客席から、少しづつ手拍子が鳴り始めた。


 初めて聴いた曲だけど、その歌詞とメロディは、とても心地よく僕の胸に染み込んでいった。自然と歌詞を口ずさみ、手拍子を打っていた。

 すごく美しい曲だった。講堂の中に、あの日のイマリンビーチの夏の夕焼けが拡がったような錯覚すら、ぼくは覚えた。


 部長のギターの余韻を十分に残して、演奏が終わった。


 部員が、それぞれ手を振り、頭を下げて、舞台袖にはけた。


 すぐに、客席から「アンコール」の連呼と手拍子が起こった。

 ぼくも、全力で声を上げて、手を叩いた。


***


 部長を先頭に、再び、軽音部のメンバーが舞台に現れた。会場に、大歓声が巻き起こった。


「ありがとうございます。では、最後に二曲だけ、お楽しみください。……まずこの曲は、ウチの波多津が皆さんに捧げます」


 部長がそう言って、キーボードの古賀にアイコンタクトした。


 何度もなんども聴いてきた同じピアノの旋律が、会場に流れた。


 波多津薫が、大きく息を吸って、それから、歌詞を噛みしめるように、ゆっくりと歌い始めた。


 会場にいる者で、この曲を知っている人間はほとんどいないだろう。現に、客席は少し戸惑い気味に、波多津薫の歌を聴いている。


 モニターには「白い奇蹟(聖飢魔II)」と表示されていた。


 間奏に入り、波多津薫のギターソロで、それまで静かだった会場は一気に盛り上がった。


 美しく、力強いメロディが、一瞬で観客席の心を掴んだのがわかった。


 古賀のピアノが曲を締めると、会場は、割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。

 ぼくと鶴さんも立ち上がり、他の皆と同じく、いつまでも、拍手を続けた。


***


「“どうしても歌いたい”って、あいつがわがまま言い出してさ」


 部長が、首筋の汗をタオルで拭いながら、波多津薫を見て笑った。


 白い奇蹟の事だ。


 当の波多津薫は、他の部員や生徒に請われるまま、あちらこちらで写真撮影に応じている。


「サイドギターのアルペジオ、結構むずかしくてさ。大変だったよ」


 部長は、そう言うと白い歯を見せた。


「あ、あの。凄かったです!」


 ぼくは、正直な気持ちを言った。


「……そうか。なら、来年は、お前が今日のおれの役目を果たしてくれるか」


 意味が解らず、ぼくは「え?」と聞き返した。


 「この間の発言は取り消す。高田、軽音部に入って、お前が薫を支えてやってくれ」


 部長が、真剣な目で僕を見た。


 少しだけ戸惑った。


 だけど、ぼくはその視線を真っ直ぐに受け止め、


「はい」と、答えた。


 部長が、笑顔で右手を差し出した。

 ぼくはその手を、しっかりと握り返した。


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