第三十七楽章 パシリーズ
古賀がどこからか拾って来たビーチボールで、四人でビーチバレーをやる事になった。
ぼくと波多津薫、古賀と二里とでチームを組む。
穴が開いていて空気は抜けるし、ネットはないから点は入れ放題のメチャクチャなゲームだった。だけど、久しぶりに太陽の下で身体を動かして、たくさん健康的な汗をかいて、ぼくはなんだか清々しい気持ちになった。
試合結果はと言うと、ぼくと波多津薫チームは、やたらと運動神経のいいふたりにフルボッコに……という、結果だった。
そして罰ゲームとして、ぼくたちはジュースの自販機にパシらされた。
松林から聞こえる蝉の大合唱を浴びながら、ふたりで、駐車場の端にある自動販売機までのんびり歩く。
少し前を歩く波多津薫は、太腿の中ほどまでの丈の競泳用水着の上から、紫外線避けの、薄手の白い長袖パーカーを着ている。
私服はいつもお洒落なのに、水着姿は、なんだかずいぶんと地味だ。
「波多津さん」
ぼくが声を掛けると「なに?」と、波多津薫が振り返った。
「……ひょっとして、海が苦手なの?」
おそるおそる僕が訊ねると、
「……わかる?」
と、波多津薫はちいさく舌を出して、それから苦笑いした。
「なんか、元気なかったから」
「うーん……」
波多津薫は、眉をしかめて困ったような貌をした。
「海自体は嫌いじゃないし、毎年あのふたりと行くのは行くんだけど。人前で、水着になるのが……苦手」
いつも煌びやかな印象しかない彼女にしては、なんだか、意外な発言だった。
「あのふたりが、浜辺で特に目立つからね。去年なんか、大学生たちにナンパされて大変だったし」
「ナンパ」
「うん。だから、今年は少し時期をずらして泳ぎに来たんだ」
少しずつ言葉を交わすうちに、ぼくたちは、自動販売機にたどり着いた。
二里と古賀は「炭酸!」との事だったので、コーラをふたつ。ぼくはリンゴジュースを、波多津薫は、お茶を買った。
ふたりで、来た道を戻って行く。
「だから、今日は高田君を誘ったんだ」
「……だから?」
波多津薫は、ちいさく頬を膨らませた。
「さっきの話。去年みたいになったら嫌だから、男の子が一緒にいたらいいって」
そう言われて、悪い気はしないけれど……。
ぼくは、不思議に思った。
波多津薫は、クラスではいつも多くの男女に囲まれて、ニコニコと笑い、話している。
男の友達だって、きっと大勢いる。
なのに、どうして、わざわざぼくを誘ったんだろう。
ぼくは、なんだか胸がドキドキしてきた。
ぼくの気持ちなんか知りもしないであろう波多津薫本人は、さっそく缶のプルタブを開けて、ゴクゴクとおいしそうに、冷たいお茶を飲んでいる。
夏の日射しを受けて、波多津薫の額や首筋に浮かんだ汗の玉が、キラキラと輝いた。
この子は、本当に綺麗だ。
ぼくの視線に気づき「なに?」と、波多津薫が訊いた。ぼくは「な、なんでもない」と慌てて答える。
そうこうしているうちに、ぼくらはテントに戻った。
古賀と二里のふたりは、パラソルの日陰に入らずに、何故か浜辺に立ち尽くしている。
「なにしてんのよ」
コーラを渡しながら波多津薫が訊くと、
「なんか、あっちから音楽が聴こえるんだよ」
と、それを受け取りながら古賀が言った。
音楽?
ぼくと波多津薫も、耳に手を当てて意識を集中させた。
……たしかに、なにか音楽が聴こえる。それだけではなく、司会らしき声も、時たま混ざる。
「なんかやってるのかな」
波多津薫が、そう言った。
「行ってみようぜ!」
という古賀の提案に、
「いいね、行こう!」
と、二里が乗った。
波多津薫が、ぼくを見た。
「……行こうか」
ぼくが言うと、波多津薫はニコリと笑って、うなずいた。




