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第三十一楽章 夢去りし日の窓辺

 日曜日の昼過ぎ。


 つけっぱなしのテレビが映す、特に興味もない「のど自慢中継」を、ぼくはぼーっと眺めていた。おそろいのTシャツを着込んだ三人組のおばさんが、キャンディーズを歌い、踊っていた。……あ、落ちた。


 おかあさんが朝食に作ったホットケーキの残りに、溢れるくらいの蜂蜜を掛けて食べる。


 リビングの壁には、おとうさんが好きな八十年代の映画のポスターが、何枚か飾ってある。キチンと額に入っている。


 その中の一枚「ロッキー4」のポスターに写っている”ロッキーのパンチを受けるドラゴ“が目に入り「……()()()()()()()()だな……」と呟いて、ぼくはちいさく笑った。


 昨日は、無断で夢竜をサボってしまった。


 週末だから忙しかっただろうな、と思う。鶴さんと、佐知子さんと……波多津薫に、悪い事をしてしまった。


 おかあさんは、久々にぼくが夜に目の届くところに居るのが嬉しそうだった。おとうさんはその反対で「今日は、バイトはいいのか」と、おかあさんの目を盗んで訊いてきた。ぼくは「休みだ」と嘘をついた。


 久々に、何もせずに部屋でゴロゴロしていた。スマホをスピーカーに繋げて聖飢魔Ⅱの曲を流しながら、ぼんやりと天井を眺める。


 夕方になるとそれにも飽きて、エピフォンカジノを引っ張り出して、軽く爪弾いてみた。


 何気なく、無意識のうちに、ぼくの指がコードを押さえる。

 ピッキングする。


 指が自然に、次に弾くべきコードを押さえている。

 ピッキングする。


 ……耳に心地よい澄んだ和音が、室内に響く。


 全部、波多津薫に習った事だ。


 この一ヶ月、ほとんど毎日、一緒にいた。

 働いたのも、ギターを弾くのも、女の子とこんなに話したのも、みんな初めてだった。


 クラスで遠くから眺めているのではわからない、ひとりの人間としての「波多津薫」と、濃密で、充実した夏休みを過ごしたのだ。


 彼女の駄目なところも、嫌なところも、悪いところも、初めて知った一ヶ月だった。


 だけど、思い出すのは、波多津薫の笑顔ばかりだった。


 ぼくが、初めてまともにコードを押さえられた時の笑顔。

 講義中の質問に、しっかり答えられた時の笑顔。

 凄いタッピングを披露した後の()()気味の笑顔。


 胸が苦しかった。


 何度も、LINEで謝ろうかと思い、スマホを手に取り、そして戻した。


 波多津薫が弾いて見せた、ルーク篁のソロ曲「REMEMBER FRAME」の歌詞が、心臓をえぐった。……まぁもっとも、からだなんか重ね合っていないけども。


 で、気づいたら、こんな時間だった。


  その後、ぼくはさらに悶々ゴロゴロを繰り返したが、夕方になってついに腹を括り、深呼吸をひとつすると、タンスを開けて着替えをした。


 一階に下りる。


  おかあさんがリビングから顔を出して「出掛けるの?」と訊いてきた。


 ぼくはギターケースを抱えて、うなずいて見せた。


「ちょっと、いつもの河原で練習してくる」


と言って、ぼくは後ろ手に玄関のドアを閉めた。







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