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第二十八楽章 理論派のワケ

 鶴さんが吐いた煙草の煙がゆっくりと部屋の空気に溶けていく様を、ぼくは、ぼんやりと眺めていた。


 夢竜の二階、鶴さんの部屋の上り口で、ぼくはギターを抱えて呆然と座っていた。そのすぐ横に立って、鶴さんは煙草をふかしている。


「まぁ、あいつもちょっと根を詰め過ぎだったしな」


 鶴さんが、独り言のように呟く。


 ぼくは、黙って下を向いた。


「……昔は、あそこまで“理論派”じゃなかったんだけどなぁ」


 鶴さんが、苦笑いをしながら言う。


「そうなんですか?」


 ぼくは、鶴さんの予想外の言葉に思わず食いつく。


「薫は、ガキの頃からバリバリの“ハードロックスタイル”でさ。ルーク篁から始まって、高崎晃や橘高文彦やら、とにかく早弾きギタリストを崇拝してたんだよ」


 鶴さんは笑いながら、短くなった煙草を灰皿で押し消した。


「単純なギターなら、はっきり言っておれより弾けるよ。まぁ正直、天才だろうな」


 あれだけ上手い鶴さんが、あっさりと「自分より上」と認めた。ぼくは、軽い戦慄を覚えた。


「だけど、高校の軽音部に入って、変わっちゃったんだ。“このままじゃいけない。勉強しなきゃ”って。急に言い出したかと思ったら、次の日には、山ほど理論書を買ってきた」


 高校の、軽音部で?


「たかだかギター歴一年の先輩のプレイに、打ちのめされたって言ってたな」


 え?


 小学生の頃からギターを操ってきた“天才ロックギタリスト”が、ギター歴一年の人間に負けた?


 ぼくは、動揺を隠せなかった。


「それは、いったい誰なんですか?」


 思わず、声が大きくなった。


「……軽音部の、部長だって言ったな」


 鶴さんが、ぽつりと言った。


 ……軽音部の、部長……?


 ぼくは、軽音部の部室で会った、興味なさげな瞳でこちらを見つめてきた部長さんの姿を、頭の中で思い返した。


 そして、その左耳に煌めいたピアスの輝きを、なぜか、思い出していた。








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