第二十七楽章 美しくはない反逆
「それって、どういう意味?」
ぼくが不用意に発した言葉は、波多津薫を“キレ”させるには、充分すぎるものだった。
佐知子さんと交代し、ふたりで二階に上がって、いつものように、波多津薫の講義が始まろうとした時、
「もう時間もないし、今日から、ふたりの時もギターの練習しない?」
と、ぼくは言った。
正直なところ、波多津薫の講ずる小難しい音楽理論にどうしても興味が持てなかったし、実際、ぼくには本番までの時間もあまりなかった。
鶴さんと波多津薫のギターに、ちょこちょこっと「オカズを添えるだけ」の今の状態から早く脱却したかったし、もっと実践的な練習を積めば、そうなれると思った。現に「蝋人形の館」に関しては、ずいぶん、ふたりのプレイについて行けるようになっている。
「……それは、なに? わたしの教えてる事は“無駄”だって言いたいわけ?」
波多津薫が、あきらかにこめかみをピクつかせながら言った。
「む、無駄だとは思わないよ。けど、今はそういう時じゃないんじゃないかな」
いつもなら黙って引き下がるところを、今日は、思い切って自分の意見を言ってみた。語尾が、少し震えた。
「……最初に基礎をやらないで、いつやるのよ」
波多津薫は、なんだか妙に冷めた調子でそう言った。
「基礎って……。ギターにそこまでの基礎とか理論っているのかな? 現に、鶴さんから習った通りに弾く方が、明らかに上達が早いし」
「は? 基礎があっての応用でしょ? ここで土台作りをサボったら、今後なにをやっても身に付かないよ?」
波多津薫は、あきれたような仕草をしてみせた。
「とにかく、なにがなくとも理論と基本。それ以外に上達の道なんかないから」
波多津薫は、キッパリとそう言い放った。
「……君は、そうだろうね」
ぼくは、蚊の鳴くようなちいさな声で、そう言った。
「は?」
波多津薫が、訊き返した。
「……君は、才能があるからそうなんだろ」
「どういう意味?」
ぼくは、腹を括って、思いの丈を一気に話した。
「た、例えばさ。波多津さんと同じ年月、ぼくがギターをやったとするじゃない。だからって、ぼくが君と同じように弾ける保証なんてどこにもないだろ?」
波多津薫は一瞬息を飲み、
「そんなの、やってみなけりゃわからないじゃん」
と言った。
「わからないさ。だけど、これは確かに言える。ぼくは君とは違うんだ。それなのに、君はぼくに君と同じような結果を求めてる。……それが、ぼくには苦痛なんだよ。」
……ここまで言って、ぼくは「言い過ぎた」と気づいた。
謝ろうと波多津薫の顔を見て、ぼくは、ハッとなった。
波多津薫は、泣いていた。
子供のように、大粒の涙を瞳いっぱいに湛えて泣いていた。
次の瞬間、彼女はKillerのギターを抱えて、部屋を飛び出して行った。
ぼくは、波多津薫の足音が、階段を駆け下りていくのを黙って聞いている事しか出来なかった。
自分の身体が細かく震えている事に、ぼくは、この時はじめて気付いた。




