第二十五楽章 ロックンローラー(個人的見解)
一転して、鶴さんが合流した後の練習は“シンプルそのもの”だった。
秋祭りの課題曲「蝋人形の館」を、三人で演奏する。
鶴さんと波多津薫は散々“弾き倒して”きた曲なので、ぼくが「ふたりの演奏にいかに合わせるか」が、問題だ。
鶴さんはぼくに「最低限のコード」と「遵守すべきテンポ」を教えるだけだった。
メトロノームや、鶴さんが作った打ち込みのドラムをしっかり聞いて、例えば、ふたりが一小節に八回ピッキングをする曲なら、ぼくは四回目と八回目だけ、確実にふたりに合わせて音を出す……と、いった具合だ。
こっちは、感覚的にわかる。
二種のコードを習い、なんとか押さえられるようになったところで、早速、実践する事になった。
ふたりがゆっくりと弾いてくれるギターに合わせて、要所要所で音を出す。
何度か繰り返すうちに、少しずつ、出来るようになってくる。
これは、楽しい!
ついつい調子に乗って、余計なところまで弾いてしまいそうになる。はやる気持ちを抑え、エース長官になったつもりで、正確なピッキングを心掛ける。
一時間が、あっという間に過ぎた。
「そろそろ時間だな。……よし、最後の仕上げに行こう」
鶴さんがそう言うと、波多津薫が、ギターを床に置き、いきなり肩のストレッチを始めた。鶴さんも、レスポールを外し、おもむろに屈伸を始める。
ぼくが、ぽかんとしていると、
「高田。ロックンローラーにいちばん必要な事って、何だと思う?」
と、いきなり鶴さんが訊いてきた。
ぼくは、少し考え、
「えっと。技術とか、センスとか……ですかね」
と、答えた。
すると、鶴さんは笑って「違うな」と首を横に振った。
「ロックンローラーはな、かっこよくなけりゃダメなんだ」
鶴さんが、自信満々に言った。
「はぁ」
ぼくが訝しげに言うと。
「見た目がいけてりゃ、下手でもカッコいいんだよ。……では、プッシュアップから」
そう言うと、いきなりふたりは床にうつ伏せになった。ぼくも、慌てて真似をする。
「号令、十づつ回して、三十まで。はい、いーーーち!」
いきなり、腕立て伏せが始まった。
しかも、普通のではなく、床に対して身体を擦り上げるように動かす、レスラー式のやり方だった。
ふたりがそれすいすいとこなしていく横で、ぼくは、十六回目で力尽き、床に突っ伏した。




