第二十一楽章 どうなることやら。
「……で、チューニングはおしまい。簡単でしょ?」
波多津薫はそう言うと、開放弦で「ジャラン」とギターを爪弾いて見せた。涼しげな音色が短く室内に響いて、それから、ゆっくりと溶けていく。
昼休み、軽音部の部室だ。
外は気温三十度をゆうに超え、座っているだけでも汗ばむほどの状況だけど、部室の中は、窓枠に備え付けられた旧型のクーラーのおかげで快適さを保っていた。
この間とは違って、いつも波多津薫とつるんでいるふたりの軽音部員の女子が、一緒にいる。
茶色に染められたセミロングの髪の「古賀秋穂」、
金髪をポニーテールにしている「二里夏花」。
この三人はいつもたいがい連んで行動していて、学校でも、よく目立つ存在だ。
古賀と二里も、やはり、男女を問わない人気者で、いつも誰かしらに囲まれている。まぁ、ゴリゴリのリア充。ぼくとは本来無縁な世界の、学校の一軍ってやつだ。
ぼくが波多津薫にギターのチューニングを習っている間中、古賀と二里のふたりはその横で「ヤバい、ヤバい」と連呼しながら、スマホでぼくらを撮ったり自撮りをしたり、挙句にはお菓子をぱくついたりしていた。
「……気が散るんだけど」
言葉とは裏腹に、二里が向けたスマホにサタニックサインを見せながら、波多津薫が言う。
「いや、だって。このメンツはウケるでしょ」
二里は、隣の古賀に撮れた写真を見せながらそう言った。
「確かに。高田っちと薫がバンドとか、想像つかないわ」
古賀も、二里の言葉に賛同する。
その点は心配ない。
ぼく自身、想像もしていなかったし、未だに実感もない。……っていうか、その「高田っち」って、なんなんだ。
「他人の事はいいけど、あんた達、練習してんの?」
波多津薫が呆れた顔で言うと、
「まかしとけって。昨日も、二人でガンガン練習してきたし」
二里と古賀は、ふたりで波多津薫にVサインを見せる。
「……それって、いつものカラオケ行っただけじゃないの?」
波多津薫が言うと、ふたりは「バレてるし!」と、顔を合わせて笑いあった。
「……大丈夫だって。来週から夏休みだから、ふたりで本気だすよ。マジ」
古賀が、余裕綽々の様子で言う。
……そうか。
来週から、夏休みか。
思えば、ぼくが初めてユーチューブで聖飢魔Ⅱを知ってから、丸々一年が経とうとしているのか。
「薫はどうすんの。夏休み、部活以外に用事あんの」
古賀が、チュッパチャプスの包装を剥ぐのに苦戦しながら言った。
「私? 私は、実業祭だけじゃなく、秋祭りの練習もあるから」
そう言うと、いきなり波多津薫はぼくの肩に両手を掛けて、
「高田君を、二ヶ月で“いっぱし”に仕上げなきゃいけないからね」
と、微笑んだ。
「あ、これ、マジなやつだ」
古賀が、ぼくに向かって“合掌”し、頭を垂れた。
ぼくが、わけもわからず狼狽えると、その隣に座る二里が、
「うん。薫がマジの時だ。……高田っち、これ覚悟した方がいいわ」
と、引きつった顔で言った。
ぼくは、隣の波多津薫の顔を見た。
「……大丈夫だよ。優しく、丁寧に教えるから」
波多津薫は、にっこりと微笑んだ。が、例によって目が笑っていなかった。




