第二十楽章 一緒にやるよ!
「自意識過剰だ」と、何度も自分に言い聞かせながら、ぼくは、自転車を漕いだ。
いつもの朝。
いつもの時間。
いつものルートで、学校に向かっている。
なにも変わらない、いつもどおりの朝だ……背中に、ギターケースを背負っている以外は。
いつも同じ場所ですれ違う人たちが、なんだか今日は、みんなぼくの背中のギターを見ているような気がする。
校門をくぐり、下駄箱で上履きに履き替えて、教室に向かう。
いつもどおりに騒がしい教室の入り口で立ち止まり、ぼくは、小さく深呼吸をした。
ゆっくり、教室に入る。
いつもと同じく、談笑しているクラスメイト達の間をすり抜けて、自分の席に着く。ギターケースを背負ったままで椅子に腰掛けようとして、背もたれに、ケースを軽くぶつけてしまう。
ぼくは慌てて背中からそれを下ろして、とりあえず、机の横に置いた。
クラスメイトの数人が、その様子に気づいた。
「よう」
例の「マイルドヤンキー」楠久が、彼にしては珍しく、朝から話しかけてきた。
「あ、おはよう」
ぼくは、どぎまぎしながら応える。
「なにそれ」
楠久が、顎をしゃくって、ギターケースを指した。
「ギターだけど……」
楠久は、ぼくの答えに露骨に苛立った表情を浮かべた。
「見りゃわかるわ。なんで持ってきたのかを訊い……」
楠久がそう言い終わらないうちに、
「おはよう!」
と、横から、やはりギターケースを背負った波多津薫がぼくらの会話に割り込んで来た。
「お、さっそく持って来たね。もう弾いてみた?」
波多津薫は、ぼくのギターケースをまるで小動物のように撫でながら訊いた。
「ま、まだ。姉ちゃんがうるさいから……」
ぼくが答えると、
「そっか。なら、とりあえず後ろに置いときなよ。あとで、チューニングから教えてあげる」
と、言いながら、ぼくのギターケースも抱えて、さっさと後ろのロッカーに行ってしまった。
楠久が、目を丸くする。
「なに? 高田、軽音部に入るの?」
ぼくが、事情を説明しようとした時、戻ってきた波多津薫が楠久に向かって、
「私と高田君、バンド組むんだ」
と、屈託なく言った。
それを聞いて、教室内が明らかにざわついた。
「マジか、波多津」
楠久が、苦笑いする。
「マジだよ。秋祭りのライブでデビューするから、なんなら観に来てよ」
楠久にそう言うと、波多津薫は、ぼくに向かって微笑んだ。
ぼくは、引きつって“笑み“には見えないであろう笑顔を、楠久に向けた。
入学してから今までの一年半、ただただ目立たないようにやり過ごしてきたぼくの日常が、たった一日でいきなり騒がしいものになったのを、自分に集中する教室の皆の視線で、ぼくはひしひしと感じ取った。




