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第二楽章 まさか⁉︎ の発見。

 夕飯と入浴を済ませると、リビングでテレビを観ている両親に「おやすみ」と軽く言って、ぼくは二階に駆け上がった。


「夜更かししないで早く寝なさいよ」


 という母親の声が、後ろからぼくの背中を追っかけてきた。

 

 ぼくの名前は「高田隆(こうだたかし)」という。


 陶器と果物、ブランド牛で有名(ぼくらがそう思ってるだけかもしれないけれども)な九州は佐賀県の伊万里市で生まれ育ち、伊万里実業高校という公立の高校に通っている。


 我ながら、少々残念な男子……だというのは、自覚している。


 なにしろ、勉強もスポーツも人並み以下。おまけに、もう二年のなかばなのに、学校に親しい友達もいない。各クラスにひとりくらいはいる「こいつ、なにが楽しくて生きてるんだ?」って皆に思われているタイプの生徒。……アレだ。アレが、ぼく。


 もちろん、こんなぼくにも「楽しいこと」のひとつくらいはある。

 これからが、その楽しい趣味に没頭する貴重な時間帯なのだ。


 エナジードリンク缶とポテトチップスをキーボード周りに配置して、パソコンの電源を入れる。


 検索画面を開き「聖飢魔Ⅱ」と、入力する。


 ずらりと並んだ無数の検索結果の中、公式サイトに始まって、5ちゃんねるから個人のホームページ、はたまたフェイスブックやツイッターまで捜索範囲を拡げて、聖飢魔Ⅱ関連の新情報を探す。


 1999年のバンド本解散後も、聖飢魔Ⅱの元構成員が個別にやっているバンドは、九州でも福岡博多くらいまでならぽつぽつと来てくれている。だから、観ようと思えば、ボーカルのデーモン閣下も、ギターのエース清水長官率いる「face to ace」も、おなじくギターのルーク(たかむら)がドラムのライデン湯澤とやっている「CANTA」も……まぁ、個悪魔別にだったら観られるわけだ。

 

 ……でも、申し訳ないが、どうにもそれらにはまだ食指が働かない。


 やっぱり、ぼくは五悪魔全員が揃った「聖飢魔Ⅱ」が観たいし、聴いてみたい。


 だけど、五年ごとの「期間限定集結ミサ」はどこの公演もプラチナチケットで、高校生の自分にはとても行けそうにない。そもそも、"推し"のエース長官は不参加表明しているし。


 結局、大した新情報を得られないまま、ぼくはいつものように「聖飢魔Ⅱのギターを弾いてみた」系の動画を漁り始めた。


 個人宅からライブハウスまで、様々な場所で様々な人が、聖飢魔Ⅱのコピーにチャレンジしている。

 自分の周りにいないだけで、日本中にこうして信者が潜伏している。まるで自分が「秘密結社の一員」にでもなったみたいで、なんだか可笑しくなってくる。


 そう。


 ぼくの、唯一と言える趣味。


 それは、1999年12月31日にとっくに解散済みの、伝説のヘビィメタルバンド。聖飢魔Ⅱ(せいきまつ)の楽曲を聴くことなのだ。


***


 ぼくが聖飢魔Ⅱと出会ったのも、このユーチューブだった。


 去年の夏休み。友達もいなければ部活もしていないぼくは、日がな一日、従兄弟のお下がりのパソコンでユーチューブを見るだけの日々を過ごしていた。


 ゲームや漫画やアニメは、最初は面白いけど直ぐに飽きてしまって、どれも芯からハマることが出来なかった。


 その点、ユーチューブは都合がいい。


 好きな動画の好きな場所だけをちょこちょこ見ていられるのは、飽き性のぼくには最適な娯楽だった。


 そんなある日「あなたへのおすすめ」に、白塗りの顔の男がマイクを握っているサムネイルがあった。


 男の顔は知っていた。


 相撲やら怪獣やらのマニアックな知識をテレビで披露していたのを見たからだ。


 ……名前は、確か、デーモン閣下。


「この人、歌も歌うんだ」

 なんとなく好奇心をそそられて、ぼくは、その動画を再生した。


 1999年12月31日の、聖飢魔IIの解散公演での演奏だった。

 曲名は「BRAND(ブランド) NEW(ニュー) SONG(ソング)」。


 動画がはじまって一分ほどで、ぼくは冗談抜きで、全身に鳥肌が立った。


 こんなにかっこよくて、心に響いた曲はなかった。


 音楽を聴いて、こんなになったのは初めてだった。


 音楽知識なんか何もないし、バンドなんてものにも興味を持った事がなかった。だけど、その歌が剣の形に実体化して、ぼくの脳みそを貫いた……そんな錯覚すら覚えた。


 とくに心に焼きついたのは、ひとりのギタリストの姿だった。


 赤い髪、赤い衣装に身を包んだ、白地の顔の目のまわりに、赤いメイクを施した、長身の男のひと。八重歯とやたらと長い脚。そして、激しい演奏の間に垣間見せる、はにかむような笑み。


 ……かっこいいな。


 心の底から、そう思った。

 そのひと(悪魔だけど)こそが、聖飢魔Ⅱのギタリスト「エース清水長官」だった。


 ぼくはこの一本の動画で、すっかり悪魔に魂を奪われた。


 そこから、ぼくの信者生活が始まった。


 お小遣いのほとんどをつぎ込んで、配信されたアルバムや書籍を買い漁った。


 生まれて初めて、ぼくが“夢中になった”と宣言できるもの……それが、二十年前にとっくに解散済みのカルトバンド、聖飢魔Ⅱだった。


***


 で。


 いろいろな動画をはしごしていくうちに、“関連動画”の欄に、


「Japanese cute girl play the guitar at Sasebo 」

 という動画があるのを、ぼくは見つけた。


 佐世保?


 ぼくが住んでいる伊万里の隣町だ。関連動画に出てきたという事は、明記していないけど、聖飢魔Ⅱのコピーって事なのだろうか。


 試しにクリックしてみる。


 いきなり「BRAND NEW SONG」の演奏の途中から、動画は始まっていた。


 ライブハウスらしき場所のステージに立っているふたりは、右側が男性、左側が女性だった。それぞれ、スタンドマイクの前で歌いながらギターを弾いている。


 後方のドラムを叩いているひとと、そのすぐ側でベースを弾いているひとは、聖飢魔Ⅱの構成員と同じメイクを顔に施していた。ギターのふたりは、普通の顔だ。


 サビのハモりが終わり、間奏のギターソロに入る。


 女性の方が、ギターを弾きながらステージ前方に歩みでる。カメラが()()っと、女性の手元をアップで映し出す。


「すげぇ……」


 エナジードリンク缶を握ったまま、ぼくは、思わず声をあげた。


 ギターの事なんかなにひとつ解らないけど、まるで、本物のルーク篁の演奏のような「凄味」を、ぼくは動画の女性から感じた。


 最後の「鳴き(チョーキング)」でギターソロが終わると同時にカメラの角度が上がり、アップで女性の顔を写した。


 ぼくは「えっ!?」と、ふたたび声をあげた。


 ギターソロを弾き終え、歓声を浴びながら笑顔でスタンドマイクの前に戻る女性の顔。


 間違いない。


 あれは、同じクラスの、波多津薫だった。


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