第十五楽章 リア充こわい。
演奏は、波多津薫がリードギター、部長がサイドギター。ボーカルは部長が取り、サビに入ると、波多津薫がコーラスを入れる……というスタイルだった。
ツタヤで借りた「君の名は」を観た時は、
「……いかにも流行りそうなストーリーと音楽をくっつけただけの、薄っぺらい映画だな」と、ぼくは思った。正直、あんなにヒットする様な大名作とは思えなかった。
それでも、実際に目の前で聴き慣れた主題歌を演奏されると、CDで聴くのとは全然ちがう、胸に来る「なにか」があった。
圧倒された。
最初は、冷たい目つきのまま弾いていた波多津薫も、曲が乗ってくると、口元にわずかに笑みを浮かべるようになった。
時折には部長さんとアイコンタクトも取り、笑顔を交わす。
その様子を見て、
「この子は、本当に音楽が好きなんだな」と、ぼくは思った。
そして、勝てっこもない部長さんへ嫉妬心がむくむくと海中イカ墨の如く心の中に沸き起こった。
ぼくはあわてて、それを想像上の両手で掻き回して薄めた。
そうこうしているうちに、演奏が終わった。
「どうだった?」
波多津薫が、ぼくと部長を交互に見て、訊いた。
「す、すごかった」
ぼくは、正直にそう言った。
「ギターソロの時、先走りすぎ」
部長が、アンプの電源を落としながら言った。
「お前が上手いのはみんなわかってるよ。でも、演奏はバンド全体でやるんだ。せっかく自分でアレンジして継ぎ足したギターソロなんだから、リズムをしっかり聞いて、ギターを弾く事」
アンプから抜き取ったシールドケーブルを手早く巻いてギターケースに収納しながら、部長さんが言う。
「わかりました」
波多津薫は、意外にもその言葉に素直に返事をした。
「……じゃぁな」
そう言い残して、部長さんが、ギターケースを抱えて部屋を出ようとした。
「待って!」
その背中に、波多津薫が声を掛けた。
部長が、振り返る。
「あのさ。高田君、ウチに入部してもいい?」
突然の質問に、ぼくは「いや、そんな急に……」と慌てふためいた。
「……お前、なんか楽器弾けるの?」
部長が、冷めた目でぼくを見つめた。
ぼくは思わず顔を伏せて「……いえ」と、ちいさく呟いた。
「歌は?」
「……得意では、ないです」
ぼくがそう答えると、部長は肩をすくめて、
「じゃ、ダメだな」
と、言った。
「なんで? わたしがちゃんと教えるよ」
波多津薫が、くってかかる。だけど、部長はまるで意にも介さず、
「俺おれ達も、秋の実業祭で引退だ。そのあとは、お前が部を引っ張って行かなきゃいけないんだ。いまから素人に構ってるヒマなんかねぇよ」
と言うと、部室のドアを開けて出て行った。……と、思ったら、顔だけをひょいと部室に戻した。
「たまにはウチにも顔出せ、薫」
最後にそう言うと、ちいさく手を振って部長さんは帰って行った。
「行かないわよっ!」
波多津薫の怒声が、その背中を追っかけた。