第十一楽章 いつもと違う昼休み。
青空の下、いつもの芝生に座り込んで、ぼくはスマホの画面をタップする。
昨日のライブで演奏された曲だけで構成されたセットリスト。佐世保からの帰りに、伊万里に向かう電車に揺られながら作成して、もう、いったい何回くり返して聴いたのだろう。
目を閉じてヘッドフォンに集中すると、目の前で、昨日のライブが再現されるような気がする。
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昨日、あの「VELVET」でルーク参謀と同じ「killer」の赤いギターを携え、波多津薫は、凄まじい演奏を披露した。
音楽のことも、ギターの事も、ぼくにはなにひとつわからない。
だけど、その迫力。音量。音圧。重低音……。
いろんなものに、ただただ圧倒された。
途中、リーダーと金髪のギタリストさんが舞台袖に捌けると、波多津薫と長身細身の“鶴飼”が交互にボーカルを取り、
「HOLY BLOOD 」
「 MASQUERADE」
の疾走感のある曲を、二曲続けて披露した。
そこで、またリーダーと金髪のギタリストが合流し、今度はバラード曲の「NEVER ENDING DARKNESS」を、リーダーが朗々と歌い上げた。
そして、最後に畳み掛ける様に「BRAND NEW SONG」を演り切って、波多津薫は笑顔で観客席に手を振りながら舞台を下りた。
会場は、割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。
「姫ー!」
という叫び声が、なんどもなんども、いつまでもいつまでも客席から繰り返された。
その後は“鶴飼”と狡決亜Ⅱで、聖飢魔Ⅱ初期アルバムの曲を中心にしたライブが行われて、一旦、ライブは終わった。
すぐに観客席から、手拍子と「アンコール」の大合唱が巻き起こった。
しばらくして、狡決亜Ⅱと鶴飼、そして、波多津薫がふたたびステージに現れた。
アンコール曲として「JACK THE RIPPER」が披露された。
会場は、もはや興奮の坩堝だ。
ギタリスト三人による、なんとも贅沢で巧みなギターソロ回しが披露された。観客の皆が、その演奏に熱狂し、酔いしれた。
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それから、一夜が明けたわけだけれども、ぼくの中の余韻は、まだまだ消えそうにない。
ぼくは、うっとりと目を閉じて、イヤフォンから流れるメロディーに聴き入っていた。
その時、いきなり、左耳のイヤフォンの音が消失した。
あわてて振り向くと、しゃがみこんだ黒髪の少女が、ぼくのイヤフォンの片方を耳に押し当てて“にやり”と笑っていた。
「……昨日いたのは、やっぱり高田君か」
少女は、ぼくに屈託のない笑顔を向けて、そして言った。
青いシュシュでひとつに結ばれた、長くて癖のない艶やかな黒髪。
モデルのようにすらりと制服から伸びた、細く長い手足。
シャム猫を思わせる、おおきな瞳。
とおった鼻筋。ぷっくりとした桃色の唇。
そこにしゃがんでいたのは、波多津薫だった。