第十楽章 波多津薫が、そこにいる!
その後、
「EARTH EATER」
「アダムの林檎」
と立て続けに三曲が披露された後、MCのコーナーになった。
リーダーのシャウトでのコールアンドレスポンスが終わり、メンバーが順に紹介される。各自が、ちょっとした近況報告を兼ねたコメントをしていき、最後に、リーダーにマイクが戻された。
「さて。我々“狡決亜Ⅱ”、聖飢魔Ⅱのコピーバンドでありながら、ギタリストが一人だけという、なかなか珍しい編成なのだけれども……。まぁ、前任の彼が、どうしても“家業を継ぐので時間がとれない”と言うものだから、これはまぁ仕方ない」
リーダーの言葉に、客席からまばらな拍手が上がる。
「だがしかし! 今回も我々“狡決亜Ⅱ”は、非常に強力なカプセル怪獣……もとい助っ人を、なんと、ここにふたりも召喚してある!」
客席から、大きな拍手と歓声が起こる。
「お前ら、あいつらのギターが聴きたいかぁ!?」
リーダーが客席に叫ぶ。
「聴きたーい!!」
と、観客の皆が叫ぶ。
突然、金髪の女の人が、激しいリフを奏で始めた。
超高速ナンバー「ギロチン男爵の謎の愛人」の、イントロだ。
数瞬の後、そこに、もうひとつのギターリフが被せられた。
今まで暗かったステージの一角にスポットライトが当てられる。いつの間にか、ステージ上にもうひとり男が立って、激しくギターを奏でていた。
その長身細身の男の顔に、ぼくは見覚えがあった。
波多津薫が「BRAND NEW SONG 」を弾く例の動画で、一緒にギターを弾いていた男に間違いなかった。
さらに、もうひとつ、激しくギターリフが重なる。今度は、長身細身の男と反対側にスポットライトが当たる。
ぼくは、自分の目を疑った。
スポットライトを浴びて、はにかんだような笑みを浮かべて、他のふたりに負けないくらい……いや、それ以上に激しく、手にした赤いギターを奏でている少女。
黒いライダースジャケット、タータンチェック柄のスカート。
青いシュシュで結ばれた、艶のある黒髪。シャム猫みたいな大きな瞳。よく通った鼻筋に、ぷっくりとした唇。モデルのようにすらりとした肢体……。
それは間違いなく、同じクラスの波多津薫だった。
「紹介しよう。オン、ギター。フロム伊万里! 鶴飼英弘! そして、我らが姫、波多津薫!!」
リーダーの絶叫に合わせるように、三人のギターが絡み合うようにメロディーを奏でていった。
客席から、今日いちばんの拍手と歓声が巻き起こった。