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その復讐は果たされる

賀仁は安堵の表情を浮かべた。

きっとカノンならあの哀れな男を救ってくれると思っていた。

良かった。これでもう、レッドは大丈夫だ。

カノンは自分は何も出来ないと言っていた。だが果たしてそうだろうか?

賀仁は背後を見る。

そこには、ピンショーと呼ばれていた男が1人の女を抱き締めながら泣きながら笑っていた。

あの人もきっとカノンに救われたのだろう。


彼女はいつだって誰かを救ってくれる。賀仁自身も彼女によって救われていた。

小学校の頃クラスの男子たちから酷いいじめを受けたせいで同性が怖くなり結果周りとうまく馴染めず、案の定大学では浮いてしまった。それだけではなくまた意地悪までされるようになった。

だがカノンだけは賀仁に対し意地悪することなく目を掛けてくれた。仲良くしてくれた。まるで昔からの友達だったかのように接してくれた。


それがどんなにありがたいことか……カノンには分からないかもしれない。

だというのにこんなことにカノンを巻き込んだ自分を恥じていたが、カノンは賀仁を責めることはしなかった。それどころか自分を探していてくれたのだ。

こんな人はいない。


良かった。これ以上傷付く人はいない。

抱き合う2人の姿を見る。

盗み聞きをしたようで申し訳なかったが、半獣の姿になってから聴覚が異常に良くなってしまったのだ。

柔らかい風が賀仁の髪を撫でる。


街を見下ろす。

1人の青年がどこかへ走って行くのが見えた。

賀仁の姿をした青年……シラカミだ。

彼女はどこへ向かうのだろう。


シラカミは人間で、更には日本人であるとこちらに来た当初言われた。

そして自分の成すべきことを手伝って欲しいと言われる。それは、自分の大事な人を傷付けた人間に対する復讐だと。

その人物は孤児であったシラカミを救ってくれた……その話を聞いた時賀仁は、彼にとってのカノンのような人がシラカミにもいるのだと分かり、協力することにした。


結果は……どうなのだろう。これで良かったのだろうか。

半獣を作り出していた大佐は死んだ。恐らくピンショーがうまく軍を誘導するだろう。

本当なら彼がバッヂを使い軍内部の人間殆どを殺す予定だった。それをしなかったのは、彼の弱さか優しさか。

今後半獣は作り出されない、と思いたい。


賀仁は耳に触れる。

半獣は解放された。彼等の中には人間に復讐しようとする者もいるだろう。

ヨガイラのように。

好き勝手な方向に折れ曲がった少女の体を思い出すと震えが来る。

せめて彼女の魂が安らかに眠っていることを祈ろう……最も、多くの人を殺す計画に加担した賀仁が祈ったところで神に届かないだろうが。


しかし、結果がどうなろうと賀仁はシラカミに協力しただろう。

それでシラカミが救われるなら。

美しく、怒りに囚われた人だった。

レッドの幸せを常に祈って、彼を救いたくて、国を壊した人。

シラカミはレッドを救えも癒しも出来なかったが結果としてカノンと出会わせた。

遠回りをしたが、結局はレッドを幸せにできたと賀仁は思っている。

そしてそれはシラカミが救われたということだ。


多くの人が死んだ。そしてこれからも死ぬだろう。

他の人たちだってシラカミを放っておけばどうなるかは分かっているはずだ。

半獣、魔王としてではなく今度は人間に紛れて混乱を巻き起こす気だと。

だが誰もシラカミを探そうとも言い出さなかった。

そんなことを言えるほど彼らの中にある怒りは消えていないのだ。


走って行く青年はこちらに気付かないまま、街の中を走り抜けて行く。

そのまま、遠く、半獣の目でも見えない遠くへと消えて行く後ろ姿を賀仁は見つめていた。

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★★個人サイトでも小説投稿しています★★ 小説家になろうには掲載していないものもあるので是非〜
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