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あなたの望むことを

カノンとレッドと賀仁は3人並んで歩いていた。

出発する前に少し休憩しようということになったのだ。

カノンはどこへ出発すればいいのだろう。

風が吹く。

少し高い位置にある、倉庫のような石造りの小屋の屋根の上に登り座る。そこからだと街を見下ろすことが出来た。


「……スイブンさんはこれからどうするの?」


おずおずと賀仁が口を開いた。

カノンはんーと首を傾げる。


「どうしようかな」


「心は決まってるくせにー」


「なんだよ」


「スイブンさんってぶりっ子だよね」


賀仁の唐突な罵りにカノンは唖然とした。

ぶりっ子。そう思われていたなんて。

呆然と口を開ける彼女を賀仁はクスクス笑う。


「だっていつも口悪いのに、レッドさんの前だと可愛く喋るよね」


「そ、そうか? な」


カノンは口を覆う。その通りだ。

レッドの前だとつい可愛子ぶっている。


「……そうなのか」


「そうかも…………」


恥ずかしくなり目を逸らすカノン。賀仁は彼女を見つめたあと、その背中を軽く叩いた。


「俺は向こうで景色見てるから」


「え、あ、うん」


彼は唇だけで「がんばれ」と言った。

カノンは耳まで熱くなる。


「カノン。……アイツとは一緒に帰れないんだろ?」


「うん。鳴滝くんはここに残るみたい」


賀仁の姿を確認する。彼は2人から100メートルほど離れた場所で街を見下ろしていた。


「シラカミが見つけた隠れ家を通ればオマエは帰れる。

そこまでちゃんと送るから安心しろよ」


「……あの、さ。聞いて欲しいことがあるんだ」


カノンはレッドの方をしっかりと見つめた。金色の瞳を捉える。


「どうした?」


「私ここに残りたい」


レッドはポカンと口を開けた。

あり得ないというように首を振る。


「何言ってんだ」


「ごめん。でも……レッドのことが好きだから。

一緒にいたい」


彼の顔が強張った。カノンはやはりダメだったか、と俯く。

分かってはいた。きっと彼が必要としているのは恋人ではない。


「……ごめんね」


「カノン。よく聞いてくれ」


レッドがカノンの手を優しく包み込む。

彼の厚い皮膚と硬い爪が当たる。


「オレもカノンのことが好きだ。

だから幸せになって欲しい。ここに居ないで元いた場所で」


「……私のこと好き、なの?」


「ああ、そうだよ」


彼女は首を捻る。両思いということじゃないか。


「好きってその……恋?」


「うん」


「……なら何も問題無いんじゃないの?」


そう聞いたカノンにレッドは優しく微笑みかけ手を離した。


「俺といて、一緒になったって子供も産めない」


ああそうか。彼女の心に何かが重くのしかかる。

カノンにとっては容易い望みでもレッドにとってはひどく困難なこと望みなのだ。


だがカノンに諦めるつもりは全くない。


「私は……子供を産むことが二人でいることの理由だとは思わない。

二人が愛し合った結果命が誕生するのは尊いことだけど、同じくらい尊いことってたくさんあるし……」


「……だとしても……俺はきっと早死にする。

こんな風になって長生きできるわけがない。

オマエを看取ってやることも出来ないんだよ」


レッドは悲しそうに目を伏せた。カノンがその顔を両手で挟んで覗き込む。


「そんなの分かんないじゃない。いつ死ぬかなんて誰が分かるの?私は明日死ぬかもしれない。今、いきなり心臓発作になって死ぬかもしれない。

私は長生きする人と一緒にいたいんじゃなくてレッドと一緒にいたい」


金色の目が見開かれる。


「オマエの生活全部捨ててまで俺と一緒になるのか?

よく考えろ。俺にそこまでの価値はない。オマエの世界を大事にしてくれよ……」


レッドの声は震えていた。

弱々しいその声にカノンの胸が締め付けられる。

だからこそ、彼女ははっきりと自分の想いを言葉にしていく。


「私の世界は確かに最高だよ。不満もあったけど、幸せだった。

家族もいる。友達もいる。趣味だってある。大事な世界。

でも良い。そもそもあそこを捨てるんじゃない。あそこから旅立つの。

旅立って、新たな世界を見つけた。

それがここで、レッドだよ。価値なんてつけられないくらい大事な存在だよ」


自然とカノンの手に力が篭る。


「……幸せにできるかどうか」


「幸せにしてもらおうなんて思ってない。

レッドと一緒に幸せになりたいからここに残るの」


「……でも、俺は……」


視線を合わせようとしないレッドに、彼女はまた彼の頬に触れて強引に合わせさせた。

彼の瞳はユラユラと揺れていた。


カノンは手を離し、レッドの手と重ねる。


「レッド。私はレッドのこと……その、愛してるよ。

側にいたい。

いさせてくれない?」


「俺も……カノンの側にいたいよ」


「ならそうしよう?

レッドのしたいことを、望むことをしようよ」


彼女はギュッとレッドに抱き着いた。

レッドはゆっくり息を吐いたあと、カノンを抱き締めた。

しっかり、離れないように。

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★★個人サイトでも小説投稿しています★★ 小説家になろうには掲載していないものもあるので是非〜
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