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3話 オッサンと異世界人 話をする

「あなたのお名前を教えていただけませんか?」


「ええ、えっと。お、俺は・・・」


思わずシドロモドロになる。

不覚にも目の前の女の子の可愛さに緊張してしまっていた。


頑張れ、俺。


「あ、あの。俺の名前、雄太って言います」


「ゆうた、さん。

 雄太さんですね。

 改めてましてよろしくお願いします、雄太さん!」


「よ、よろしくおねがいします。リリーナ、さん」


「はい」と、彼女はまるで天使のような笑顔で言った。

その顔に見蕩れ、ぼーっとしてしまう。


「・・・おい貴様。姫様のお顔をジロジロ見るな」


その声はリリーナと対照的で冷たくトゲがあった。

金髪の女が蔑むように俺を見ていた。


「姫様、お気を付けください。

 この男、頭の中でリリーナ様のあられもない姿を想像して

 楽しんでいるやもしれません」


「そ、そんなことしませんよ!

 初対面の方に失礼じゃないですか」


「どうやら、初対面でなければするようです。

 男は下衆な獣でその本能に忠実。

 お話されるのは結構ですが十分ご注意を。

 まぁ、何か変な動きをすればその瞬間に私が斬り捨てます」


「初対面でなくても変な想像とか動きとかしませんってば!」


俺もいい大人だから相手を不快にはさせるようなことはしない・・・たぶん。


「はっ、どうだか。

 男の言うことは何一つ信用ならないからな」


さっきから『男』『男』って、『男』に何か恨みでもあるの? この人。


「ユイ、雄太さんが困ってます。

 少し落ち着いて。

 雄太さんごめんなさい。ユイは殿方に思うところがあって」


「・・・失礼いたしました」


「はぁ、まぁいいですけど」


やっぱり男に何か嫌な思い出とかあるんだ。

どう思われてようといいけどさ、でもさっきみたいに刃物突き付けることは

やめて欲しい・・・怖いから。


「・・・うん?」


左手がくいっくいっと下に引っ張られる感触がある。

見ると小学生くらいの女の子が俺の手を掴み、見上げていた。


「ねぇ、雄太」


「いきなり呼び捨てって・・・。君、誰?」


また新しい女の子だ。

一体何人ここに入り込んでいるんだろう。


「ボクはねプリムって言うんだ。

 姫様お抱えの大魔法使いなんだよ」


女の子、だよなこの子。

なのに自分のことをボクって言うんだ

しかも今、大魔法使いって・・・。

リリーナもさっきから姫様って呼ばれてるみたいだし。


・・・そういう設定なのか?


「へ、へぇ。プリムちゃんって言うんだ。

 魔法使いか、すごいねぇ。

 それで、その魔法使いのプリムちゃんが俺に何か用?」


「プリム、気安く触るな。

 変な病気を移されるかもしれんぞ、離れていろ」


「そ、そんなもの持っていませんよ!」


バイ菌じゃあるまいし。


「大丈夫だよぉ。姫様が大丈夫って言ったもん。

 ねえ、雄太はさっき何を持ってここに来たの?」


「ジャガイモとか人参とかいろんな野菜だけど・・・」


「それって食べ物だよね、美味しい?」


「ああ、美味しいぞ」


「いいなぁ。食べたいなぁ。

 ボク、とってもお腹が空いたんだ」


『ぐぐぅ―っ』と女の子のお腹が盛大に鳴る。

その大きな音に彼女は「えへへ。」とはにかんでいた。


「あの、この子お腹空かせているみたいですけど。

 早く帰ってご飯食べさせたほうがいいんじゃ。

 泥棒じゃないなら、ここには間違って入ったってことでいいですから」


だがリリーナは困ったように顔をしかめる。


「そう、したいのは山々なのですが。できない事情がありまして」


「そのできない事情と言うのは・・・?」


「説明しても信じてもらえるかどうか」


「実は・・・。」とリリーナが言い出した時、聞き慣れた声が間に入って来た。


「雄太、いつまでダラダラ作業してるの!

 さっさとお風呂に・・・って、誰? ・・・雄太のお友達?」


入口から顔を出したのは母ちゃんだった。

いつまでも戻らない俺を呼びに来たらしい。


「今日、初めて会った人たちだよ。

 ここに入り込んでたみたいなんだ」


途端に何故か母ちゃんはガックリと肩を落とした。

そして俺を残念そうな目で見る。


え、俺!?


「はぁ・・・なんだぁ。

 雄太が女の子をあたしに内緒で連れ込んでたとか、

 実は誰かが雄太の彼女です、とかそういう展開が少しでもあるかもって

 夢見たのにさ」


「・・・ごめんね、期待外れな息子で」


「いいよ。あたしの息子だもん。しょうがない」


それ、俺だけじゃなくて自分にもガッカリしてるよね。

やめようよ残念な親子に自分でするのは。


「で、誰なんだい? この子たちは」


「それを聞こうとしてたところだよ」


だが、話の続きを聞くことはできなかった。

左手を掴んでいたはずのプリムがヘナヘナとその場に座り込んだからだった。


「ボク・・・もうだめぇ」


「おい、大丈夫かよ」


「雄太、その子・・・」


「ああ、何か腹減ってるみたいで」


その瞬間、母ちゃんの目がギラッと光る。

右手の親指で外に出るよう合図した。


「雄太、その子を早く家へ連れて来な」


「は?」


「ご飯を食べさせるから、早く」


「でも・・・知らない人たちだよ?」


「お腹空かしている子を放っておけないだろ、農家として。

 特に子どもには腹いっぱい食べさせてあげないと。

 ほら、あんたたちもお腹空いてるんだろ? 事情は後でいいからさ。

 まずはうちのご飯食べて行きな」


「えっと・・・い、いいのでしょうか」


突然の申し出にリリーナは困惑していた。

この『田舎のお婆ちゃんモード』に入った母ちゃんはもう止められない。

(婆さんなんて年齢じゃまだないけど。)


「こうなったら、食べるまで許してもらえません。

 ここも暗いですから。

 とりあえず、こっちに来てください。この子は俺が運びます」


座り込んでいたちびっ子を抱え上げ、腕の中にすっぽりと収める。

申し訳なさそうにするリリーナ達を引き連れて、俺はみんなを家へと案内した。






――――――


「何これ! 美味しい!!」


「このスープ、体の芯から温まりますなぁ」


「・・・旨い」


「このお野菜すごく甘いです。

 こんなの生まれて初めてかも、素晴らしいです」


ジャガイモ・人参・玉ねぎなどの煮つけに、サツマイモの味噌汁。

人参の葉の天ぷらや大根葉のふりかけなど野菜中心の料理が並んでいる。


肉や魚はまったくない。

みすぼらしいメニューだったかもしれないが、みんな美味しそうに食べていた。


それにしてもこの人たちのゴテゴテした格好。

畳の部屋には死ぬほど似合わないなぁ。


「いい食べっぷりだねぇ。惚れ惚れしちゃう」


料理を頬張る彼女たちを、母ちゃんはうっとりとした表情で眺めていた。

作った料理を褒められたことはもちろんだが、

育てた野菜を「美味しい」と言って食べてもらえることが農家は何よりも嬉しい。


手間暇かけて苦労して作ってよかった、そう思えるからだ。


リリーナ達の幸せそうな顔を見て、俺も何だか嬉しかった。


「おばちゃん! おかわり!!」


プリムがほっぺたに米粒をつけたまま、元気よくお椀を差し出す。

もう4杯目だというのに食欲は止まらない。


「プ、プリム。ほどほどに。

 ご厚意で食事をさせていただいているのですから」


「いいのいいの。たくさん食べてくれるのがあたしらは嬉しいんだから。

 あ、そっちの子のお椀も空になってるじゃない。お味噌汁のおかわりいかが?」


「・・・い、いただきます」


あんなに狂暴だった女が顔を赤らめながらおずおずとお椀を出している。

その顔は何だか可愛く見えた。


だが、俺の視線に気づくと彼女は途端に顔をしかめる。


「こっちに顔を向けるな。不愉快だ」


気のせいだった全然可愛くない。


「ユイも元気になったみたいですね。

 よかった・・・。それにしても、ご飯をご馳走になっているのですから、

 もう少し雄太さんに優しくしてもいいのでは?」


「この料理を作ったのはこいつではありませんので。

 それにこいつは男です」


「もう、ユイの男嫌いも筋金入りですね」


あ、やっぱり男嫌いなんだ。

それで俺への当たりが強いんだ・・・納得。


「いいのいいの。

 雄太の冴えない顔なんか見てたらご飯も美味しくなくなるかもしれないし。

 ほら、雄太はあっちでも向いて食べな」


「・・・母ちゃんの俺への扱いも十分ひどいよな」


俺はテーブルの上をひたすら見ながら食べることにした。






「「「「ご馳走様でした!!!!」」」」


出した料理は平らげられ、空の皿が並んでいる。

だが、母ちゃんはまだソワソワしていた。


「みんなお腹はいっぱいになったかな。

 あ、お浸しとかすぐにできるし、ご飯と漬物ならたくさんあるよ」


田舎のお婆ちゃんモードは客の胃袋を満たしてもなお続く。


「いえ、本当にもう食べられません。ありがとうございます」


リリーナは根気強くそう言って、ようやく母ちゃんを諦めさせた。


「お腹が空いたらすぐ言うんだよ」


「はい、この御恩は絶対に忘れません。必ずお返しします」


「いいんだって。食べる物だけはいくらでもあるからね。

 さて、と。それじゃ、そろそろお話をしましょうか。

 あなた達がここに何しに来たのか。

 ・・・雄太、みんなの分のお茶」


「わかってるよ」


湯のみに温かいお茶を煎れ全員に配る。

母ちゃんはそれを飲みながらリリーナに「さぁどうぞ」と促した。


「実は、私たちは・・・」


そうして彼女の口から語られたのは、

にわかには信じがたい現実離れした内容だった。






―――――

「へ、へぇ。そうなんだ。

 リリーナちゃんはどこかの国のお姫様。

 ユイちゃんはそんなリリーナちゃんを守る騎士でプリムちゃんは魔法使い。

 そしてクラウスさんがお世話をする執事さん」


「はい」


「で、リリーナちゃんはお父さんから無理矢理に結婚させらるのが嫌で、

 自分の人生を変えたくてプリムちゃんの魔法を使って家から逃げ出したら、

 何故かうちの倉庫にいた、と」


「結婚の話がきっかけになりましたが、

 私は誰かのために生かされ利用されるだけの人生を変えたかったんです」


「しかも、リリーナちゃんたちはこの世界の人じゃないんだって?」


「おそらく、プリムの魔法で別世界に行くよう指示しましたから」


母ちゃんは反応に困っていた。

苦笑いしている。


いや、ちょっとどうしようか?

みたいな目で俺を見られても困る。


リリーナが嘘を言っているようには見えないけど。

一応これだけは聞いておく必要があるだろう。


「あの、そういう『設定』ということはないですよね?

 リリーナさんたちは何かのコスプレをしてて、

 みんなで作品の世界観に入り込んでるとかはないですよね?」


「こす、ぷれ? とは何のことでしょうか。『設定』って・・・?」


本気でわからないって顔をしている。


この人たちは都会の人で、他人の目がほとんどない田舎でコスプレでもして

楽しもうと集まり、道に迷ってしまったのでは・・・と思ったが違うようだ。


でも、そうなると。

本当に異世界人ってこと!?


まさかそんなこと、あり得るのか・・・?


「なんだ貴様。その疑うような目つきは。

 姫様の言うことが信じられないとでも?」


「魔法で転移とか、そんなことが現実に起こると思えなくて」


「現に私たちはここにいる」


「そうなんですけど。

 でも、魔法なんてこの世界では夢物語の中のものですから」


「おい、プリム。

 この男に何か魔法を見せてやれ」


魔法!?


それは是非とも見てみたい。


「ごめん、今は無理ぃ」


だが、返って来たのはプリムの眠たそうな声だった。


「な、何故だ!?」


「魔法力が空っぽだからぁ。

 水晶に溜め込んだ分も全部使っちゃったもん。ほら、真っ黒でしょ」


プリムは右手をみんなに見えるように持ち上げる。

ブレスレットに付けられた宝石は黒く、輝きがまったくない。


「ここはマナがすごく薄いから当分無理かな。

 回復に時間がかかりそう」


「この大事にな時に!」


「ふぁ・・・ゴメン。ボクもう眠いや。お休みぃ」


その場にコテッと寝転ぶと、プリムはすぐにスウスウと寝息を立て始めていた。


「おい、プリム起きろ」


「ユイ、待って。プリムも疲れてるのです。寝かせてあげましょう」


リリーナはプリムの頭を優しく頭を持ち上げ自分の膝へと載せる。

その感触にプリムはすぐさま幸せそうな寝顔になった。


「雄太さん、お母様。

 信じられないのも無理はありません。

 ですが、誓って嘘は言っておりません」


確かめる方法は今はない。

が、リリーナの話を俺と母ちゃんも納得はしてないが、

向けられているその真剣な表情を信じてみる気になっていた。


「それで、これからどうするの。行く宛はあるのかい?」


「・・・残念ながらありません。

 でも、私にはユイにプリム、クラウスがいます。

 みんなと一緒にこの世界で暮らしたいと思っています」


異世界からやって来た、文化のまるで違う人たち。

彼女たちがこの日本で衣食住を確立することができるのだろうか。


「それなら、手っ取り早く簡単にできる方法があるよ」


フフッと笑いながら母ちゃんは言った。

そんな方法があるなら俺にも教えて欲しい。


「そ、それは何でしょう!?」


リリーナは思わず身を乗り出す。

俺も思わずゴクッと喉を鳴らしていた。




「それはね、雄太と結婚することさ!」




「ごふっ!」


思わず吹き出してしまった。


「リリーナちゃんかユイちゃんが雄太と結婚すればこの家にずっと住めるよ。

 部屋の数はあるからお付きの人もいていいし。

 食べる物には基本困らない。

 お金は雄太を出稼ぎにでもやればいいよ」


「母ちゃん! 一体何を言い出すんだよ!!」


「事情はどうあれ、こんなに可愛い子が迷い込んで来たんだよ。

 行く宛ないって言うし、嫁になってくれれば儲けもんじゃないか」


「そんな弱みに付け込んで結婚を迫るとか、俺嫌だよ」


「あたしに孫の顔を早く見せようと思わないのかい?

 それに働き手が増えれば楽ができるじゃないか。あたしが」


母ちゃんは完璧に自分のことしか考えていなかった。


「あ、あの、すみません」


リリーナが申し訳なさそうに手を上げる。

チラッと俺を見るなり深々と頭を下げた。


「ゆ、雄太さんのことが嫌いとかそういうのではないんですが。

 私のやり直したい人生とはちょっと違うかなと。

 そもそも国の結婚話からも逃げて来たわけですし」


「私はこんな奴と結婚するなんて真っ平ご免です。寒気がします」


あれ、俺秒でフラれた?

告白とかしたわけでもないのに?


ま、まぁ。母ちゃんが何か口走ったせいだし。

悲しくないよ。うん、全然悲しくない。


「まぁ、雄太は甲斐性全然ないからね」


「ごめん、今の俺の甲斐性の問題なのかな」


「ゆ、雄太さんがダメとかじゃないですから。

 私の思う生き方と違うだけですから」


もう、その辺で勘弁してください。

本当に泣きそう。


「あああ、あの!

 どこかでお仕事を斡旋してくれるところはないのでしょうか。

 酒場とかギルドとか」


「ぐすっ・・・そんなものこの日本にはないですよ。

 仕事の紹介ならハローワークがあるけど。

 でも、身元の不確かな女の子に紹介してくれるかな」


「姫様、当面は私が動物や魔物を狩ってお金を得るというのはどうでしょうか」


ユイが剣を持ちながらそう提案する。

だがそれも、この世界では無理な話だ。


「魔物なんてどこにもいませんよ。

 猪や熊は本土の山に行けばいますが、狩りをするのにも許可が必要です。

 でも間違いなくリリーナさんたちは許可してもらえないと思いますよ」


必要になる住民票とか持ってないし。


「ば、馬鹿な。おい、剣をどこか活かせる場所はないのか」


「そんなの持って出歩くだけで捕まりますよ」


「そ、そんな・・・」


ユイはガックリとうな垂れていた。


「・・・あの、雄太さんやお母さまはどういったお仕事をされているんですか」


「ん? あたしらは農業だよ。

 さっきみんなで食べたような野菜を作って商売してるの。

 全然売れてないけどね」


売れてないとか言いながら、こっち見るなよ。

これから売れるはずなんだから。


「あの! あ、あたしたちでも、その農業ってできるんでしょうか」


リリーナはすがるように言った。


「リリーナちゃんたちだけで始めるのは難しいかなぁ。

 畑のための土地は農家しか手に入れられないから。

 お店に出荷するための審査もあるし、苗や肥料、農機具代は先払いになるから

 ある程度の資金がないとね」


「そんな・・・。

 人生をやり直すことがこんなに難しいだなんて」


どの方面に向かうにしてもハードル高いよなぁ。

俺が農業の道に進めたのも母ちゃんがずっと続けててくれたからだし。


「まぁ、しばらくはこの家に泊まっていいからさ。

 みんなでゆっくり考えてみたら?」


「・・・はい、そうさせていただけると助かります。

 ありがとうございます」


リリーナはかなり気落ちしているように見えた。

どうしたらいいかわからないから無理もない。


「・・・。

 雄太、寝床用意して。お風呂にも案内したげるんだよ。」


「わかったよ」


こうして異世界人たちは俺の家にしばらく居候することになったのだった。


――――――

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