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トクソウ最前線  作者: 春野きいろ
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 水木先生から連絡があったのは、五月の連休が終わったころだ。実習用の植物を育てたいが、袋や本に書いてある言葉がわからないなんていう、和香から見ればどうでもいい内容だ。職員室で訊けば知っている先生が一人くらいはいるだろうし、インターネットにも解説はいくらでもある。

「用務員さんにお願いしたんですけど、面倒くさいみたいなこと言われちゃって」

 学校からの正式な依頼であれば、教材の飼育栽培は仕様のうちなので、そんなはずはない。経谷中学の用務員の顔を、思い浮かべてみる。多少億劫がりではあったけれど、仕様書を無視するようなタイプじゃないと思う。

 舘岡中のとき、水木先生は和香に直接依頼ごとをしてきた。それを和香から管理さんと副校長先生に報告していたのだ。指示系統を正しくしなければ、個人的に請けたと言われてしまうからだ。もしかしたら、正規の依頼じゃないと判断されたのではないか。

「先生、副校長先生を通して依頼してます?」

「いえ? 舘岡中では主事室に直接お願いしていたし」

 なんとなーく理解した。水木先生は、指示系統がわかっていない。

「ごめんなさい、私は直接伺っちゃってましたけど、本来は副校長先生を通さないと請けられないんです」

「そんなこと言われたの、はじめてです」

 ときどき、こういう人はいる。自分の仕事が上手くまわれば、他の人がどういう動きをしているのか興味がないタイプだ。自分に関係のあることと関係のないことの二種類に分けてしまって、一度関係がないと分類すると眼中から消えてしまう。


 ここで自分が、水木先生に指示系統まで説明しても良いものか。これを理解していないのは学校側の問題であって、佐久間サービスの範疇じゃない。プライベートだとすれば、水木先生は年上で他人を指導をする職業の人で、和香はその人の職場に出入りしている請負業者だ。

 本来ならば直接連絡を取り合う関係ではないし、実際職場と無関係の場所で会ったこともあるのだから、新しい友人とカテゴライズしても何の問題もない。問題がない部分を問題にしてしまうところが、和香である。

「もう一度、副校長先生を通して依頼してみてください」

 それしか言えない。

「こう言ってはなんですが、舘岡中の用務員さんは良かった。こちらが言う前に動いてくれて」

「それは超ベテランがいたからです。水木先生の任期より長くいた人がいましたでしょう? 彼女はあのあたりの地域役員だから、顔が広いし校内に詳しかったんですよ」

 なんだか面倒になってきた。何が言いたいのだ。


「それはそうと」

 水木先生はいきなり話を変えた。

「インコカフェってご存知ですか? 一度行ってみたいんですが、男ひとりで入るのは勇気が出なくて、興味はありませんか」

 これってデートのお誘い! なんでいきなり、職場以外で知らない相手から誘われているのか。いや、大抵の場合は誘いますよなんて前振りがないことは知っているのだが、そして確かに誘われた経験がないこともないのだが、頭のなかがジタバタする。

「インコって、鳥のインコですか」

「そうです。目がまんまるでよく喋る鳥。かわいいですよ」

 どうしよう。インコの種類なんて知らないし、実は鳥に興味なんてない。一度断ったら二度と誘われない可能性はあるし、水木先生には興味がある。ええい、飛び込め!

「行ってみたい、です」

「じゃ、早速日曜日に予約入れていいですか。楽しみだなあ」

 突然週末の予定が決まってしまい、和香が呆然としている間に電話は終わった。 


 そしてまた、和香はクローゼットを掻き混ぜるのである。

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