鍵を鳴らす
それは
造られた空間に
響くだけ
日常では起こせない
起こしようもない
世界。
片手では開けられない扉の中
木材の香と
かすかに黴の匂い
暗がりに冷房が効いていて
さながら水槽のなかの如く。
光あびる舞台を影が凝視している
そこへ襲いかかる訳でもなく
みんなただ押し黙って
くちびるを引き締めている
がつんがつん
自信と緊張をそのままに
ぴかぴかの重たい靴を木の床へ打ちつけ
今宵の案内人が闇の向こうより
扉を開かんとやってくる
彼のまだ細い背中が
黒く艶めく魔法の扉へ向かう
それは入口の扉より尚重い
厚い綿をつめられた静けさに
誰かのくしゃみがこだまする
余韻は表層を漂いつつもふかく夜の直中へ墜ちていった
やがて
彼がやさしく扉に手を掛け
鍵を鳴らす
音がさざ波に光る粒のように広がって行く中で
風は確かに
突上棒に見顕されたその扉の向こうから吹き流れた。
花吹雪の庭
革命前夜の熱帯夜
宮廷舞踊に消えた一夜の囁きや
あるいは絶えて久しいと伝え聞くあの__
今昔の境が溶ける
その扉の向こうの世界を
誰が愛さずにいられるだろうか
それなのに
心が痛みだして目を背けたくなってしまうのは
あの世界を支配する彼らが
眩しすぎるからなのだろう
(ユーザー名から察した方もいらっしゃるかもしれませんが)クラシックが好きなのでこんな詩を書いてみました。
ピアノは弾けるのですが自分の限界というかレベルの低さを知ってから複雑な気持ちもあります。
最後の部分は憧れ半分やっかみ半分ですね…w