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part08. 国賊の語り ~王が消えた日 ※R15

 あっけないものです。

 実にあっけない。


 新国王になって一年足らずで、プロメッサ王国は歴史を終えようとしている。


 女神の祝福がある国と呼ばれ、豊かな自然と恵まれた大地の美しい地の祖国。


 その大地を国民が声をあげ駆け巡る。王家の象徴であった旗は折られ、人々が踏みつける。そこいらへんに転がっている石のように、誰もその存在を意に介さない。


「王が見つかったぞ!」


 その一声に皆が一斉に振り向く。


「王を捕らえろ!」

「そうだ! 引っ張り出して、首を切れ!」


 一年前までは考えられなかった言葉が声高に叫ばれる。私も王がいる場所へと急いだ。


 私はお嬢様から願いを託された。

 だから、この国の行く末を見届けなければ。

 それに…


「皇帝陛下、ここまでです」

「くっ…タンジー…貴様っ!」


 お嬢様に代わって、この方の末路を見届けなければ。


「無益な抵抗はやめて、大人しく捕まってください」


 駆けつけた時、旦那様と国王が対峙していました。王は王妃を背にかばいながら、剣を旦那様に向けており、旦那様は剣を下ろしていました。


 最前線で突入された旦那様の鎧は傷ひとつありません。それが、いかに臣下の抵抗がなかったかを物語ってます。王家には専属の騎士団があり、豪腕な騎士が揃っているはずです。抵抗されれば、無傷ではいられない。旦那様も覚悟をされていました。なのに…


「もう一度だけ申し上げます。抵抗はお止めください」


 王を守ろうとする者は誰一人いない。それは、もはや、この国は王を必要としないと言っているようなものでした。


「ダリア! 君は僕が守るから!」

「ピィール様…」


 おとぎ話に出てくる王子様のようにお姫様を庇う姿に反吐がでます。この期に及んで、この方たちはまだ現実を見ない。その姿に怒りすら覚えます。


「ダリア、下がって! はあぁぁぁぁ!」


 王が旦那様に向かって、剣を振り下ろす。


「愚かな…」


 ーーキィィィン!


 一瞬の出来事でした。旦那様は、王の剣を弾き飛ばし、剣は地面に刺さります。弾き飛ばされた衝撃で腕が痺れたのか、腕をさえ、王はひるみます。それを見逃さず、旦那様は一気に距離を詰めました。


「動くと首が飛びますぞ」


 旦那の剣が王の喉元を捕らえ、王は動けなくなります。


「くっ…おのれ…」

「抵抗なさいますな。私とて人の親。憎しみから、あなたの首を落としかねません」


 更に力が加わった剣が、王の喉を浅く切る。


「拘束を」


 旦那様の一言に二人の男が王の腕をとる。


「離せ! ダリア! ダリアアアアア!」


 王妃に向かって叫ぶ王に旦那様は静かに話し出す。


「私の娘にも落ち度はありました。それは親としてお詫びするところです」


「しかし、娘の首が落ちる所を見せられて許せるほど、私はできた人間ではない」


「あなた様には公開処刑を受けていただきます。娘の見た景色を存分に見て頂きたい」


 正気を失った王に旦那様の声は届かない。それは旦那様も充分、承知していました。それでも、それでも…言わずにはおれなかったのでしょう。旦那様のお心が私には痛いほど分かりました。


「連れていってくれ」


 旦那様が声をかけると、王を拘束していた男たちは歩き出す。部屋から出るまで王の咆哮は聞こえ続けていました。


 一つ息を吐くと、旦那様は王妃に向き合った。王妃はただ静かに旦那様を見つめている。


「あなた様も拘束します。宜しいですね」

「かまいませんわ。どうぞ、ご自由に」

「あなた様は国を乱した罪により、辺境の地へと幽閉されることになります」


「幽閉…幽閉とおっしゃいました?」


 旦那様の言葉に、王妃の顔色がみるみる怒りに変わっていく。


「生きろと言うのですか? この私に」

「血を流すのは王だけで充分です」

「生きる…そんな…」


 王妃は、ヨロヨロとふらつきながら、旦那様に近づく。そして、旦那様の胸をかきむしるように、すがりついた。

 とっさに私は剣を構えた。


「ダリア様のいない世界で生きろというんですか? この私に」

「あなた様が、娘に特別な感情があることは知っています。しかし、娘と同じ年のあなたを手にかけることはできない」


「戯れ言を!!」


 王妃の顔は怒り狂っていた。


「私が今までなんのために、あの男のそばにとお思いか! 甘やかし、欲しい言葉を与え、子種をこの身に受けてきたと思う!」


「すべてはダリア様のため! そして、この日のためだ!」


 王妃の思わぬ告白にぞわりと、悪寒が走る。この方は協力者だとおっしゃっていた。それは、王が好きだから、王を手にいれるためだと思い込んでいた。

 まさか…初めからお嬢様のことしか考えていないだなんて…。


「「私の予言は、『王を惑わし、滅ぼす魔女となる』だ! 私はダリア様の願いを叶えるために必要な駒だった!」

「あなた様は、娘の願いを知っておられたのか。なぜ…」

「なぜ? はっ。私は生まれたときから、ダリア様と比較され続けてきた。比較され、蔑まれ続けてきた! 最初は恨みもしたが、ダリア様を見て、私がまちがっていたと気づいた」


 遠くを見つめ、王妃はうっとりと愉悦の笑みをうかべる。


「ダリア様は美の神だ。何もかもが美しい…」


「そして、ダリア様のことを調べあげ、ダリア様の願いを知った私は、自分の予言の本当の意味を理解した。その日から、ダリア様のためだけに生きてきた!」


「ダリア様が私の全てだ! さぁ、殺せ! 私を殺せ! ダリア様のところへ逝かせろ!!」


 王妃は旦那様の胸を強く叩き出す。何度か叩いた後、旦那様がその手をとる。そして、静かに口を開きました。


「やはり、あなた様には生きていただく。それがあなたにとって、最も苦しい罰だからだ」


 その言葉に王妃は絶望する。


「いや…いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 半狂乱する王妃を男たちが捕らえる。王と同じように何度も何度もお嬢様の名を呼びながら、部屋を出ていった。


「旦那様…」


 なんと声をかけてよいか分からなかった。王妃…いえ、ユリ様はお嬢様を愛しておられた。愛しておられたのに…なんと後味の悪い結果だ。


「ローバー…私のしていることは間違っているのかもしれない」


 静かに旦那様が語りだす。その顔は険しく、手は強く握られていた。


「ユリ様には、心の静けさが必要だ。そして、ダリアありきの自分ではなく、ユリ・ポムグラネイト男爵令嬢としての最期を迎えてほしいと思っている」


「そして、ピィール様は、早くダリアのそばに。現世では結ばれなかったのなら、せめて、向こうの世界で会えるようにしたい」


 そう言うと、旦那様は目をつぶり、顔を上げる。


「これは、お二人には受け入れられない身勝手な思いだ。だが…娘をとめられなかった、せめてもの罪滅ぼしだと思っている」


「旦那様…」


 私は深く礼をする。


「旦那様のお心のままに」


 それ以上はなにも言えなかった。



 その三日後、ピィール様の公開処刑が執行される。その日はくしくも、お嬢様が亡くなられた日だった。



 ーーーーー



 お嬢様が亡くなった日と同じよく晴れた日だった。


 雲一つない。どこまでも飛んで行けそうなほどの晴天。まるで、お嬢様がピィール様を迎えているように思えた。


 私は処刑台に首を据え、虚ろな瞳で下を見ている。暴れるので、昏睡する薬を飲んでいただいた。


 この綱を切れば、ピィール様は死を迎える。


 綱を切るのは私の役目だ。


 仮にも王だ。誰もがこの役目をやりたがらず、それならば…と私が申し出た。

 旦那様は「そこまでしなくてよい」と、言われましたが、この方の私が送り出したかったのです。

 ちっぽけな。実にちっぽけな嫉妬心もありましたが、お嬢様の元へ送り出そう。それが、この方にできる私の罪滅ぼしだと思っていたからです。


「失礼します。ピィール様」


 一声かけて、顔に黒い布をかける。その時、掠れた声が耳に届いた。



「やっと…そばに……」



 その声に胸がつまった。感情を押し殺し、綱をナイフで切り裂く。



 ーーーーーーダンっ!!



 こうして、最後の王はこの国から消えていきました。



 ーーーーー




 王は消えましたが、これで全て終わったわけではありません。


 お忘れかもしれませんが、私にはもう一つやるべき事が残っておりました。


 そう、『神殺し』


 この国を支え、お嬢様、ひいてはすべての方の運命を狂わせた元凶ーー女神。



 最後にお話しするのは、私が女神を殺したときの話です。


 宜しいですか?


 それでは、始めましょう。





【公開中の設定】


□プロメッサ王国


女神の祝福がある地といわれているが、女神を幽閉し、女神の予言の力に頼っている。この物語の舞台。


□女神


プロメッサ王国に幽閉されている。人の未来を予知し、予言として伝えることができる。その予言は外れない。


□タンジー公爵家


代々、国政にかかわってきたプロメッサ王国の二大貴族の一つ。


ーCAST


◆ダリア・タンジー


タンジー公爵家の令嬢。「この先、悪に身を落とし、18歳の年、婚約者に死を宣告されるだろう」と女神から予言を受け、悪役令嬢となるが、最初の頃はうまくいかず、ピィールにやりこめられていた。一年間のうちに自作の悪女語録を元に夜な夜な悪女の演技を磨き、ユリの応援もあって立派な悪女となる。本当は孤児院の手伝いをしたりする心優しい女性。孤児院の手伝いの時は身分を隠すため、赤毛に赤い眼鏡をかけて変装していた。ピィール王子と婚約中だが、王子がユリに心を移していくため不仲となる。食べることが好き。令嬢でなかったら、先生になりたいという夢を持っていた。

自ら公開処刑を望み、最期は民衆の前で人生を終える。


◆ローバー


タンジー公爵家の執事。物語の語り手。飄々としているが、誰よりもダリアの気持ちを大事にして仕えている。また、「神殺し」の予言を受けており、ダリアと同じく運命に従おうとする。

ダリアに執事としてはあらぬ思いを抱いており、絶対の服従を誓いつつ、生きて逃げてほしいと願っている。

ピィールの最期は首切り台の綱を、彼への罪滅ぼしのため、自ら切った。


◆ピィール


プロメッサ国の王子。ダリアの婚約者。

ダリアより一つ年下。

ダリアが悪役令嬢になりたての頃は、彼女の心が離れたことに苦悩していた。

後に同じ年で庇護欲をそそるユリが現れ、ダリアと婚約中でありながらも心惹かれてしまう…と、みせかけて本当はダリアに嫉妬してほしかったために、あえてユリと仲良くしていた。しかし、ダリアが結婚を拒否したことにより、心が壊れ、ユリをダリアだと思い込み、妻にする。自身も王となり、ダリアに死を宣告する。その後、自堕落な日々を送り、即位一年未満でクーデターを起こされる。その時、誰も彼を助ける者はいなく、ダンジー公爵により公開処刑をされ、その生を終える。




◆ユリ・ポムグラネイト


ポムグラネイト男爵令嬢。ピィールと同じ年齢。この国には珍しい長く白い髪に金色の瞳、透き通るような白い肌をしている。奥ゆかしい性格とみせかけて、本物の悪女。ピィールが好きだとダリアに言い、ダリアの悪女を応援するという。しかし、ローバーには、「私は協力者。自分も運命に従っている」と何かを知っているような発言もしている。

後にピィールが自分をダリアと勘違いして愛してるいるにも関わらず、それをむしろ好み受け入れている。後に、王妃となる。

物心ついた時からダリアと比較され続けひがんでいたが、ダリアを見た瞬間、心を奪われ彼女のために生きる決意をする。女神から『王を惑わし、滅ぼす魔女となる』と、予言を受けており、それがダリアの願いを叶えるために必要なことだと知り、自分の役割を演じていた。ダリアの死後、殺される日を待ち望んでいたが、ダンジー公爵から生涯幽閉と言いわたされ発狂する。


◆アザミ


ダリアの孤児院の生活をまとめるシスター。ダリアの親友。ダリアの予言を知る人物。気心が知れた相手にはものすごく口が悪くなる。ダリアが悪役令嬢をすることに反対し「生きろ」と、説得する。ダリアの処刑前夜に駆けつけ、バカと言って号泣した。


◆クロタ


新聞記者。アザミの古い友人で、よく孤児院にも顔を出している。国嫌い。国へのネガティブキャンペーンをはるため、ダリアから情報を受け取っている。飄々した性格でダリアのことをお嬢ちゃんと呼ぶ。ジャガイモパンケーキが好物。


◆タンジー公爵


ダリアの父親。『新たな国を作るただろう。ただし、愛する子供は死ぬことになる』との予言を受けている。娘の覚悟を受け、自身の運命を進もうとしている。また、食と民を愛す「グルメ公爵」の異名をもつ面もあり、よく城下町に出没。しかも正装でくるので、有名人。

ダリアの死後、一年未満のうちにクーデターを起こし、王と王妃を捕らえる。最前線に立ったことから豪剣であることが伺え、ピィールの剣も容易く弾き飛ばしている。娘をとめられなかったと、今でも後悔しており、罪滅ぼしとして、ピィールには娘が死んだ同じ日に処刑を、ユリには幽閉を命じた。


◆タンジー公爵夫人


ダリアの母親。娘の予言を聞いて倒れるが、強い一面ももつ。


◆タンジー公爵家の門番


タンジー公爵夫人が倒れた時に、いち早くローバーに伝えた。


◆国民

王が見つかったことを皆に知らせた。


◆国民

王を捕らえろと叫んだ。


◆国民

王の首を切れ!と、声高に叫んだ。



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