目覚め
部屋に戻った光一郎だったが、彰はまだ眠り続けていた。光一郎は枕元に座って「彰…やっとワシ等の居場所、見つけて来たで」と呟いた。そしてニッコリ笑うと光一郎はその場に落ちる様に眠りに着いた。
翌朝になって、光一郎は早くに目を覚ました。恐らくは昨夜の興奮が残っていたのだろう。彰を見ると、まだ眠ったままだった。
「彰!いつまで寝とんねん!早よ起きぃ」光一郎は昨夜の事を早く彰に伝えたかった。
彰は、昨夜の事を辛うじて覚えていた様で「迷惑を掛けた」と謝って来た。
彰のそんな姿を見て、光一郎はいたたまれない気持ちになった。そこで光一郎は彰の謝罪を無視して話題を変えた。
「彰…学校に行かんでもエエて言うたら辞める気ぃあるか?」あまりに突然で突拍子もない光一郎の話しにたじろいだ彰は
「アホか?ワシが学校に行っとるから、この部屋が守られとるんやろ?」と返した。
しかし、依然として真剣な眼差しで「それがな、新しい部屋が出来るで」と答えた。
光一郎は、昨夜の慌ただしい出来事を話した。それを聞いた彰は、しばらく考え込んだ様に"うーん"と唸ると
「ホンマに大丈夫なんか?それ極道の世界やぞ」と心配そうに答えた。
「大丈夫か?やないねん!ワシ等で天下取ったんねん!」そう答える光一郎の脳裏には、昨夜の玉野との勝負が浮かんでいた。
「そら…学校辞めて、お前と一緒に居れるんは嬉しいで!せやけど、ワシらまだ中学生やぞ。そんなん鉄砲玉か何かにエエ様に使われて捨てられるだけなんとちゃうんか?」あまりの飛躍し過ぎた光一郎の話しに、彰は半泣き顔になっていた。
「せやからや!ワシはあの玉野とか言うオッサン…や無かった、若頭に殺されてもエエて言う気持ちで条件付けたったんや!それを向こうが呑んだって言う事は、ワシ等は歓迎されたって言う事やんけ」
光一郎の脳裏には昨夜のイメージした事がこびり付いていた。その分、絶対に彰を説得する必要があった。
「……分かった、ほならワシも死ぬ覚悟でお前に命預けんぞ!エエな」
彰は右拳を自分の胸に当てた後、その拳を光一郎の胸に当てがった。光一郎はその拳を両手で握り締めると「おぉ!当たり前や」と答えた。
この時の光一郎は、まだ分かっていなかった。極道と言う名の世界の汚さと恐ろしさを…