捨て犬の唄
「こちら、港区の愛宕警察署前です。伝説の極道、爆弾のタマミツと呼ばれた玉野光一郎容疑者ですが、先日の逮捕を受け、弁護士団が結成されました。弁護士団代表の水島弁護士によると、今回の警察の逮捕は不当なものとして意見書が提出されたとの事です。玉野容疑者の容疑は、傷害罪との事ですが、傷害罪に当たる罪は、玉野容疑者の未成年期に行われたもので、成人してからは、覚醒剤を資金源に利用していた敵対組織、備後組の犯行を阻止する為に行われたもので、その妨害行為を止めるべく、備後組組員による報復を防ぐ為に行われた、正当防衛、若しくは過失傷害に当たるとして、意見が添えられました。この過失傷害罪は申告罪となっていまして、被害を受けた備後組組員からは、当然なんですけれども告訴はなされていないんですよね。それを受けて検察は不起訴処分、若しくは起訴猶予の決定を下すと見られています。以上、愛宕警察署前から谷口がお送りしました」
大阪の岡山組事務所では、若頭、市橋博己が固唾を飲んでニュースを見守っていた。
「光一郎、生きとったんか。良かった、ほんまに良かった」市橋の目に光るものがあった。
「若頭、光一郎が生きとったんやったら、呼び戻しましょうや。また光一郎と暴れたいですわ」若頭補佐の鬼塚真也が興奮気味に意見した。
「アホか、光一郎はな、ワシらが手の届かんトコに行ってもうたんや。まぁ、元々ワシらには手の届かん存在やったけどな」市橋はあの日、東京へ行こうとする光一郎を止められなかった不甲斐ない自分に思いを馳せていた。
一方、麻布十番のとあるマンションの一室では、ホステスの百合がニュースを見ながら涙していた。
「タマミツさん、良かったね。裁判になったら絶対に恩返ししようって思ってたけど、そんな必要なかったね」
新見宅では
「良かったー!玉野さん、本当に良かった。」
「美香さん、ありがとう。光一郎さんだったら絶対に大丈夫って信じてた」
「頑張ったね。景子ちゃんも本当に頑張ったね」二人は抱き合って喜んだ。
とある得意先の店舗では
「ほら見た事か!玉野君が有罪な訳ねぇだろ!よし、今から商品持って真庭に祝いに行くぞ!」
「店長、そんな事したら迷惑になりますって」
「何だよ、つまんねぇなぁ」
そして、真庭エキスプレスでは…
「やったぞー!玉野は無罪だー!」
「良かった、本当良かったっす」
「泣くなよ、お前」
皆んな歓喜の中、喜びを分かち合った。
たった一匹の捨て犬が、世間を信用せず、世間に噛み付いて生きて来た。信頼しては裏切られ、裏切られては噛み付いて。何時しか捨て犬は死に場所を探し始めた。そんな中、迷いの森に迷い込んだ捨て犬はある一組の親切な父娘に拾われた。それでも捨て犬は噛み付く事を止めなかった。しかし父娘は諦めずに捨て犬に愛を持って接し、愛情を授けた。何時しか捨て犬は本物の愛を知り、父娘の元を巣立った。愛情と言う武器を持った捨て犬は、今度は自分が愛情を周りに与える番だと懸命に生きた。やがて捨て犬は皆んなから愛される名犬になっていた。
~The End~




