脱走
光一郎が中学も2年生になった夏休みの事だった。施設内で騒ぎがあった。
施設長の田中 恵美は、皆んなが集まって食事をする食堂の隅に具えてある、清掃用具入れのロッカーの裏から現金30,000円が出て来たと子供達を食堂に集めた。
田中施設長は、子供達の誰かが良からぬ事をして手に入れたと決めつけ、全員を問い正した。
しかし、当然の事であろうが、名乗り出る者はなく、普段から何かに付けて反抗をして来る光一郎に
「アンタがどっかから取って来たんやろ?」と問い詰めた。
しかし、光一郎は「そんなんワシの金やったらオバはんシバいてでも返せって言うわ」と言い返した。
その後もやった、やらないの言い争いが続き、施設長は最後に「ほんなら、これは施設のお金や言う事やな?そやったらこれは施設のお金にします」と、お金を取り上げてしまった。
本当は、光一郎の金であったが、いつかこうなってしまう事を光一郎は覚悟していた。
光一郎は、ちょっとづつ貯めた金を数カ所に分けて隠しており、もし大人達に見つかっても被害が少なく済む様にしていたのだ。
しかし大人を信用していない光一郎は、一度見つかれば施設内の汎ゆる場所を探し出すに違いないと思っていた。
それから、その日は出来るだけ大人しくしている振りをして、大人達の目を盗みながら、隠してあった金を全て回収した。
そして、その日の晩、少しだけしかない荷物と残りの貯めた金285,285円を持って脱走した。
その日の晩は堤防の橋の下で過ごした。そして、日が明けるとともにサブローを頼って行った。しかし、サブローの対応は予想外のものだった。
「お前はアホか?ワシみたいなロクでもないジジィにオンドレを養えて言うんか?ワシは前科もある!お前なんかに転がり込まれたらワシに火の粉が飛んで来るやないか!お前は言うたらまだ社会ではガキ扱いや!金があっても部屋も借りれん。悪い事は言わんから帰れ」と言われた。
しかしそう言われたからと言って、光一郎に施設に帰る選択肢はなかった。簡易宿泊施設などに泊まる事も出来たが、出来るだけ金は減らしくたないからと、橋の下に戻った。
次の日、雀荘に行った光一郎は彰に出会した。そこで、状況を聞いた彰は「お前、これからどないすんねん!堤防なんかに住んどって、台風とかで増水したらお前死ぬぞ」と言って来た。しかし、光一郎には最早、施設に戻る選択肢はなかった。
「分からんけど、アソコは檻の中や!ワシらはオバはんらに飼われてる家畜か猛獣みたいなモンや!猛獣使いのトコ居るくらいやったら死んだ方がマシや!」と言った。
この覚悟ある言葉を聞いた彰は、暫く黙り込み「分かった!来週また雀荘に来い!」と言って帰って行った。
一週間後、彰は「着いて来い」と言って光一郎をとあるアパートに連れて行った。
「どうや?今日から、ここがワシ等の部屋や」と言い「毎月家賃は持って来るから部屋借りろって言うて親に借りさせたんや」と続けた。
流石の光一郎もこの時だけは「彰はワシとは違う」と思った。




