運命の再会
新見が新班長に昇進するのも来週に控え、B班の面々はより一層、やる気を出していた。そんなある日の昼食時、新見はいつもの様に、班員との積極的なコミュニケーションを取っていた。
「玉野君、お疲れ様!あっ!井原君も笠岡君もコッチにおいでよ」新見は自分を慕ってくれる様になった若手社員達を呼び寄せた。
「新見班長!お疲れ様です」一同が一斉に言った。
「だから、みんな、気が早いって!班長になるのは来週からなんだから」少しハニカミながら言った。
「イヤイヤ!オレ等の中では、新見さんはとっくに班長っすよ」少し前まで新見に対して不満だらけで辞表まで用意した井原が言った。
「それより、井原君も笠岡君も少しは玉野君を見習って、たまには弁当でも作って来なよ!見てよ、この鮮やかな色合い」新見は一番の後輩、玉野の弁当を褒め称えた。
「いやぁ、玉野さんは別っすよ!オレなんて玉子焼き焼いたら、ほぼ炒り玉子っすよ」井原が言った。
「そうそう、それより班長みたく愛妻弁当作ってくれる女、作る方が先っす」童顔の笠岡もハニカミながら続けた。
「それより新見さん!明日休みだし久しぶりに、この面子でどうですか?」玉野がジョッキを持つ仕草で言った。
「おぉ、イイねぇ!じゃあ、後で美香に電話しとかなきゃな」左手の親指と小指を立てて、左頬に当てがって新見は戯けて見せた。その薬指にはキラリと光る物があった。
「それじゃあ、午後からもご安全に」一行は午後便へと出掛けた。
午後便を終わらせた面々は、次々に帰社して来た。配送は終わる時間がバラバラな為、事務所横にある休憩室で待ち合わせる事にしていた。最後に笠岡が帰って来て、さぁ、飲みに行くぞと言うタイミングで支店長の矢田圭太郎が呼び止めた。
「おい!新見!スマン、お前らの班の仕事じゃないんだが、直ぐ近くなんで追走頼まれてくれんか?」
新見は仕方ないなぁと言った感じに「はい!分かりました」と言いかけた所で、玉野が左手で制した。
「今日は新見さんの班長昇進の祝い酒のつもりです。主役がいなきゃ始まりません。ここは僕に任せて」と呟いた。
「スマン、玉野君、でも気をつけて!それから出来るだけ早くな」新見はすっかり頼もしくなった部下に感謝した。
追走商品はレトルトカレー、1ダースだけだった。これならば営業所から1kmほど先の店舗に行くのに自転車を使った方が、余程早い。しかし、食料品を扱う以上、衛生上の問題としてキチンと荷台に積み、お客さんの前で荷卸をするのが鉄則だ。決して手抜きをしては顧客満足度を上げる事は出来ない。
「お待ちどう様でした。レトルトカレー1ダースのお届けです」玉野は爽やかな笑顔で商品を届けた。
「ごめんね。いつもありがとう、玉野君。またお願いするね」顔馴染みの店長が丁寧にお礼を言った。
「こちらこそ、宜しくお願いします。それでは失礼します」玉野は頭を下げて車両に乗り込んだ。
「さぁ、安全運転で急ぐか」玉野は営業所に向けて出発した。
一方その頃、玉野が来る前に、先に始めていた新見達に意外な人物との顔合わせがあった。
「お待ちどう様です!追加のジョッキです!」追加注文された生中ジョッキを持って、アルバイトの女性店員が新見の前に現れた。
「あっ!お姉さん、ありが……」新見は女性店員の顔を見て、息が止まりそうになった。その店員の顔は、あの夢で見た"ケイ"そっくりだったのだ。次いで名札に視線を落とすと"はやしま けいこ"と記されていた。
「ケ…ケイさん?」新見の口から思わず名前が飛び出していた。
「何ですか?お客さん!下手なナンパみたいな事止めてもらえますか?」女性店員はハッキリと新見の顔を見たが、全く気付かない風だった。
「班長?どうしたんすか?」二人の部下はいきなり様子を変えた新見を心配した。
「イヤッ!ゴメン飲みすぎたかな?」新見は頭をブルブル振った。
「何言ってんすか?まだ一杯目っすよ」井原は心配そうに先輩に言った。
「そっ…そうだよなぁ、何か変な予知夢でも見たかなぁ?」新見の額からジンワリと脂汗が滲んだ。3人がそんな会話をしている時だった。
「お疲れ様です!スミマセン、遅くなってしまって」と、ようやく玉野が姿を現した。
「お疲れ〜っす」一同が快く出迎えた。
「スミマセン!生中ジョッキで一つお願いします!」井原が店員に声を掛けた。しばらくして、例の女性店員がジョッキを運んで来た。
「お待たせしま…」と言ったきり女性店員はジョッキを落としてしまった。
「タ…タマミツさん?」はやしま けいこ、なる女性店員は、目を見開いてその場に立ち尽くした。
「ケイちゃん?」今度は玉野もその場に立ち尽くした。
「やっと…やっと会えた!やっとタマミツさんに会えたよ!」女性店員の早島景子は仕事中なのも忘れて、少女の様に泣きじゃくりながら玉野に抱きついた。玉野もそれを受け止める様に、景子を抱きしめ「ケイちゃん、何でや?何でケイちゃんがコッチにおんねん?」と優しく言った。それを見ていた3人は、口をポカンと開けて放心状態で見守っていた。
「分からない!何も記憶がないの!ただ、ただ、何故かお父ちゃんとタマミツさんの記憶だけがハッキリと残ってて…」やり取りを見守っている3人は、初めて聞く玉野の関西弁に面食らった。そして、その中のたった1人だけが全てを悟ったのだった。
「やっぱり、あれは夢なんかじゃなかったんだ!そして、オレの前の移住者はタマミツさん…つまり、玉野君だったんだね!」それを聞いた玉野は"フーッ"とため息をつき、景子を引き剥がした。そして、玉野自身も観念した様に喋り始めた。
「リュウさん、新見さんにワシの事、話しとったんやなぁ?まさか、"ムコウ"の人間が"コッチ"来る事ないやろ思って黙っとったのに…」とヤレヤレと言った感じで話した。
「じゃあ、あの日の夜、オレを助けてくれたのは玉野君だったんだろ?」新見は生還した日の事を頭の中で反芻しながら話した。
「そう言う事ですわ!あの日、ワシは新見さんが"ムコウ"に行くって分かっとって、ほんで助けた…でも、勘違いせんとって欲しいんは新見さんやったら絶対に帰って来れる思って助けたんや」玉野は目を閉じて話していた。2人の会話についていけない井原と笠岡はお互いの顔を見合わせている。
「でも、ワシが分からんのは、何でケイちゃんがコッチに来たかって言う事や」玉野は核心の部分についての疑問を投げ掛けた。
「それは、多分オレしか説明出来ないと思うよ!オレがコッチに帰って来る時、ケイさんの危機を救おうとして、誤って二人で崖下に転落したんだ!それでオレがコッチに戻って来たのと一緒にケイさんも…」新見は夢で見た世界に思いを馳せながら語った。
「そうだったんですか?記憶がないとは言え、先っきはごめんなさい…エーっとニイミさん?」何と呼んで良いのか分からない景子は、しどろもどろに話した。
「嫌だなぁ!コウタって呼んでよ、ケイさん」新見は頬を赤らめて言った。
「ホントにごめんなさい!コウタさん」新見は懐かしい響きに少しだけ胸がキュンとした。こうして五人の宴は朝方まで続けられた。




