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爆弾と呼ばれた男  作者: 岡上 山羊
青春の旅路の果てに
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不穏な予兆

真庭エキスプレスでは、午後の配送に出発する前の昼礼ちゅうれいが行われていた。朝は皆んなが出発する時間がバラバラなので、朝礼は行えない為に、毎週月曜日に決まって開催される。

「それでは、課長の私からはこの辺で終わります。人事異動がありますので…所長、お願いします」進行役の新庄課長に続き、矢田所長が中央に立った。所長職は、一般の会社で部長職に当たる。

「それでは新庄課長からあった様に、人事異動を発表します」玉野は1ヶ月前の返事を聞かされておらず、固唾かたずを飲んだ。

「今回は、B班のみの異動となります。B班班長の矢掛君には、係長に昇進して貰い、事務所に入って頂きます。変わって班長には、新見君…君にお願いします」玉野、井原、笠岡の3人は顔を見合わせて笑顔を作った。玉野は特に新見に不満を持っていた2人に声掛けをして、本人には内緒で新見を盛り上げる様に頼んでおいたのだった。無論、最終的には自分たちの目で見て判断して欲しいと付け加えて。

「オ…オレで良いんですか?」何も知らない新見は、鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をして驚いた。

勿論もちろんだ!ここの所のお前の仕事に対する姿勢、社内外からの評価を見て決定した事だ。宜しく頼む」矢田所長の拍手から、全員に伝染して、満場の拍手が送られた。


「新見さん、おめでとうございます。オレ、あの朝以来、なんて言うか、仕事に対する考え方が変わったって言うか、責任を持って取り組む様になったんすよ。これからも一緒にB班を盛り上げて行きましょう」井原が顔を紅潮させて言った。

「ボクも井原さんから、その話し聞いて、お客さんに荷物と真心を届けるんだって気持ちで頑張ってます」笠岡も人懐ひとなつっこい笑顔で答えた。

「2人とも、ありがとうな。オレ、これからも頑張るから、皆んな一緒にやり切ろうな」玉野の手回しがあった事も知らず、新見も笑顔で答えた。


営業所内では、班毎はんごとの顧客満足度の統計を取って、月始めに貼り出される。各班の配送件数から、クレームがあった際のマイナスポイント、営業が得意先回りをした際の好評価を受けたプラスポイントを数値化し、ポイント÷件数=顧客満足度になる訳だ。B班は今月の顧客満足度が脅威の84,7%を記録し、社内全体でも4位に付ける程の成績を上げた。その一旦を担ったのが、新見が提唱した、朝の出発前に行われる積荷チェックだと評価された。朝、早めに出社して、チェックを行う事で、気持ちに余裕が出来、準備運動にもなる為、配送もスムーズに行くと言う訳だ。

しかし、これにも実は玉野がからんでいた。と言うよりは、提唱を行なったのは玉野だった。その話しは、今から4ヶ月前にさかのぼる。そう!新見がムコウの世界から生還した日だ。


「なんか、こうやって家飲みするのも悪く無いですね」玉野があたりめをしゃぶりながら言った。

「そうだね!なんか玉野君とこうして飲んでると、古くからの友人と飲んでるみたいだよ」新見も上機嫌で缶ビールを飲み干した。

「所でなんですがね、楽しく飲んでるトコ、仕事の話しで申し訳無いんですけど、明日の朝から、班員の積荷チェックをやりませんか?」唐突な玉野の提案に、新見はむせた。

「スミマセン、大丈夫ですか?」玉野は新見の背中をさすってやった。

「大丈夫、大丈夫。積荷チェックか…それ、良いかも知れないね」新見は新しい缶ビールを開けて一口飲んだ。

「先ず、積荷チェックをしておけば、荷崩れの確率がウンと下がる。積荷に間違いが無いから、気持ちに余裕も出来る。それから、これが浸透して、全員が各自でやる様になったら、朝の準備運動にもなって体もほぐれて、一石三鳥にも四鳥にもなりますよ」言いながら、玉野はチーたらつまんだ。

「なるほどねぇ、流石さすがは玉野君だ。一緒に盛り上げて行こう」そう言って2人は乾杯した。


「それじゃあ、午後からもご安全に」こうして一行は午後配送へと出発した。

玉野が快調に走行している時だった。ある男が視線に入った。備後組若頭、磯貝 俊英だった。

"タマミツさん、磯貝に気を付けて。アイツ、アンタの事、狙ってるらしいから"

百合の言葉が玉野の頭の中を反芻はんすうした。

「ワシが真庭ここで働いとる事、知られん様にせんとイカンなぁ」過去をぬぐい去ろうと足掻あがく玉野だったが、玉野自身の黒い歴史は、いつまでも玉野の事を離そうとはしなかった。

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