面接
玉野の姿は、芝浦ふ頭近くの真庭エキスプレスの応接室にあった。履歴書を携えて、真庭エキスプレスを訪れた玉野は、応接室に通されて、五分ほど経っていた。やがてドア一枚隔てた事務所から、初老の男が姿を現した。
「どうも、待たせて悪かったですね。この営業所の所長をやらせてもらっている矢田 圭太郎と言います」男は無造作に名刺を応接テーブルの上に置いた。
「イエ、玉野と申します。宜しくお願いします」それを受けて、玉野は履歴書を差し出した。矢田所長は履歴書をマジマジと見ながら、視線をこちらに向ける事なく「なるほど、経験はないが、23歳と若いんだね。それで、いつから来られる?」と、素っ気なく返して来た。玉野は未経験な事も有り、色々と聞かれる事を覚悟していたが、意外な矢田所長の返答にたじろいた。
「あの…それって、採用って事で良いんですか?」いくつかの面接を経て採用か否かを採択されると思っていた玉野は肩透かしを食らった気分になった。
「イヤね、こう言った仕事は定着率が悪くてね。言い方は悪いが、来る者拒まず、去る者追わずで行かないと、どうにもこうにもね。来てもらって、定着してくれれば良いけど、中々にそう行かないんだよ」矢田の言葉が業務の厳しさを物語っていた。
「あの…そちらに書いてる住所なんですが、近々引っ越す予定になってまして、一週間ほどいただければ有り難いのですが…」マンションの見積もり査定を申し込んでいた玉野は、猶予を請うた。
「分かりました、それでは来週の水曜日からと言う事で良いですかな?」矢田はテーブルの上のカレンダーに目配せしながら言った。
「ハイ、それで結構です」玉野は明朗に答えた。
面接を終え、会社を後にした玉野は、晴れ渡った青空を見上げて、自分の将来に付いて夢想した。
「来週から、ボクの新しい人生が始まるんだ」
このあとに起こる様々な事を予見する事無く、玉野は将来の展望に付いて希望に胸を膨らませた。




