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爆弾と呼ばれた男  作者: 岡上 山羊
新天地 東京へ
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地獄への旅立ち

「光一郎!アカン、落ち着け、ここは一旦体制を整えて…」

「じゃかましわい!弱っちぃオドレらは黙って大阪ここっとけぇ!」

「せやからや、ワシらがお前から言わしたら弱っちぃ事は認める!せやから体制を整えてから、皆んなして殴り込みかけても遅うない。死んでもうたアニキらは、もう戻ってけぇへん。焦っても無駄に命、落とすだけや」

玉野の訃報を聞いた光一郎は、怒り狂い復讐を果たすべく、東京へおもむこうと荒れ狂った。それを必死に止めようと市橋達は説得し続けていた。

しかし、市橋の「無駄に命を落とす」と言う言葉で、急に光一郎の動きが止まった。

「ほな、お前が先に無駄死にするか」と、まるで口から氷点下の息を吐く様な物言いで言った。

市橋はこの言葉を聞き、文字通り凍り付いてしまった。

光一郎の右腕をしっかりと握り締めていた市橋の手から、光一郎の腕はするりと抜けた。

市橋はこの時ほど、長年極道の世界にいながら自分の弱さと無力さと度胸の無さを思い知らされた事は無かった。


東京へ戻った光一郎は、身体を引きずる様にしながらも、目的地に向かっていた。

岡山組事務所には恐らく今頃は、警察が出入りしている事だろう。その捜査の目は備後組にまで向けられているかも知れない。

光一郎の目的地は当然、備後組だ。しかし警戒して近付かなければ、警察官に見付かってしまっては元も子もない。

光一郎は一計を講じて一旦、自宅マンションへと戻った。そして髪を洗い流し、リーゼントを落とした。着替えをするのに出来るだけカジュアルな物を選びレンズの入っていない伊達メガネを掛けた。そうすると、元々華奢な身体付きで、無表情の顔をすれば、おおよそ極道の人間とは思えない、その辺にいる極めて普通の青年にしか見えなかった。


ゴールデン街に来た光一郎は、周りに警察官がいないかを確認しながら、観光客を装い、徐々に、徐々にと備後組事務所に近付いて行った。

事務所が見える位置まで来ると、電柱に持たれ掛かり、あらかじめ買っておいた缶コーヒーを飲み、片方の手をズボンのポケットに突っ込み、一般人が休憩でもしているかの様に振る舞った。

光一郎の思惑は当たっており、事務所前には5~6台のパトカーが停められていた。しばらくすると、案の定、事務所の方が騒がしくなり、中から大勢の男達が手錠をはめられ、これまた大勢の警察官と共に連行されて来た。

光一郎は何気にそちらをチラッと見ながら、その中に磯貝 俊英が含まれていない事を確認した。パトカーが大きなサイレンを鳴らしながらその場を後にすると、空になった缶コーヒーを投げ捨て、事務所に向かって一直線に進んで行った。

多くの構成員が警察に連行された事務所内は、磯貝を含め、四人しかいなかった。

光一郎の姿を見た磯貝は椅子から立ち上がり「誰や?お前?」とサングラスを外した目を細めた。

光一郎は不敵に微笑むと「死神や、死神が迎えに来たで」と言いつつ脇に隠し持っていた短刀ドスを抜いた。

この時、光一郎の鋭い感が、この世の物とは思えない何かが近付いている事を感じ取った。

「き…貴様、ば…爆弾のタマミツか?」磯貝はらしくない格好の光一郎に気付き、後退あとずさりした。

「お前ら!アイツを…アイツを何とかせい」磯貝の号令に三人の男達が襲い掛かって来た。光一郎は始めの男の腹に短刀を突き刺すと、短刀諸共、右にけ、次の男の顔面に蹴りを入れた。その時、傷がえていない事も手伝ってか、迂闊うかつにも少しのスキを作ってしまった。

三人目の男に銃弾をニ発食らってしまった。光一郎はその場に倒れると、一人目の男に突き刺さっていた短刀を抜き、拳銃を放った男に投げた。

短刀は男の右胸辺りに刺さった。ふら付きながらも立ち上がった光一郎は、磯貝がいない事に気付いた。光一郎は事務所を出ると、磯貝を探してゴールデン街を彷徨さまよった。

「殺す!磯貝アイツタマだけは絶対に取ったる」遠のく意識の中、やがて光一郎はゴミ置き場に身をゆだねる様に崩れ落ちた。

「アカン、ど…どっかから何かが来とる、ワシを何処に連れて行く気…」

光一郎の意識は完全になくなった。

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