一人舞台
「ウォリャー!」プロレスラーの様なスキンヘッドの男が、光一郎目掛け、掴みにかかった。光一郎には、数々の格闘を乗り越えて来た経験から、この手の筋肉自慢の男の戦い方は心得ていた。先ずは、掴みにかかる事も。これ程の男に掴まれてしまうと、流石の光一郎でも歯が立たない。男を近くまで引き寄せた所を、スッと下に潜り込み、男の膝の半月板目掛けて、思いっ切り真っ直ぐに蹴りを入れた。男は自分の勢いも手伝って、前に顔面から落ちた。空かさず光一郎は、カウンターに置いていた伝票刺しの針の部分を男の項に突き刺した。男は声も上げずにそのまま動かなくなってしまった。後ろに控えていた三人の男達は、その光景を目の当たりにし、すっかり固まってしまった。狭い廊下の中、縦列に並んでいた先頭の男のみぞおちに、光一郎は蹴りをくれてやった。男達は、まるでボーリングのピンの様に次々と倒れ、その場でジャンプした光一郎の足が先頭の男の顔面にめり込んだ。次いで、次の男の胸ぐらを掴み起こすと、後ろに回り込み、チョークスリーパーを決め、頸を左に捻った。男の頸は、ボキッと鈍い音を立て、白目を剝いて卒倒した。最後の一人は、既に戦意を喪失しており、光一郎が胸ぐらを掴み「兄ちゃん、中の覚醒剤置き場に案内してくれるか?」と静かに言った。男は目を見開いて首を縦に振り、「こ…コッチです」と身体を小刻みに震わせながら立ち上がった。
男に案内させた奥の部屋には、パケと呼ばれる袋に小分けにされた覚醒剤が大量に保管されていた。
「こんだけあったら、一人で運び出すんは大変やな。応援、頼んどいて良かったわ」光一郎は不敵な笑みを浮かべた。
丁度その時、玉野が「光一郎!大丈夫か」と叫び声を上げ、店内に乗り込んで来た。その店内を見た玉野は、余りの凄惨な状況に絶句した。
「な…何じゃこりゃ?ワシらより早ように誰か応援に来たんか?」
驚愕している玉野に、奥から光一郎が姿を現し「若頭、エラい早いお着きでんな。今、全部、片付けたトコですわ」と無感情に思える物言いで言った。
「まさか…これ全部、お前一人で倒ったんか?」極道の世界の猛者と言われた玉野が、光一郎に戦慄を帯びていた。
「一人で全部やろうかと思たんやけど、応援に来てもろて助かりましたわ。奥の覚醒剤、運ぶん手伝うてもらえますか?それと、ここに居る女も全員」
本当に、この惨状をこの光一郎一人でやってしまったのか?静かに喋る光一郎の姿を見ながら、玉野は思った。




