百合
「離してよ!離してってば!」光一郎に強引に腕を掴まれ引っ張って行かれた百合は、必死に振り解こうとしたが、光一郎の握力はそれを許さなかった。
「エエから、ワシに付いて来い!真島さん、スンマセンけど、先に事務所に帰っといてもらえますか?ワシも後から若頭に報告しに行きますんで」
真島は光一郎の、この行動を自分勝手に感じたが、そもそもは光一郎の鋭い洞察力により、覚醒剤の蔓延を抑える事が出来たのだから、何か考えがあっての事だろうと承知した。
百合を連れて自分のマンションに帰った光一郎は、梱包ロープで百合を柱に括り付けた。
「何すんだよ!アタシを強姦でもする気かよ!この変態」百合は店の中で見せた清楚な感じをすっかり無くし、阿婆擦れの様に振る舞った。
光一郎は悪態を付く百合に顔を近付け「勘違いすなよ、お前みたいな女を犯したトコで、ワシに何の得もあらへん。お前は岡山組の情報源や。知っとる事、全部話すまで、こっから出られへんて思とけ」と冷酷な目つきで言った。
百合はこの冷酷な男の顔に目掛けて、唾を吐きかけたが、光一郎はヒョイと首を傾げて避けた。
「情報って何だよ!アタシは何も知らないよ」何をやっても全く通用しないこの男に、百合の怒りは頂点を極めた。その様子を見た光一郎の目は、より一層冷たさを増し
「女、ワシに目ぇ付けられたんが、お前の運の尽きや。なるべく早う口、割った方が楽になんぞ」と今度は百合の髪を掴んで言った。そこまで言うと、光一郎はキッチンに向かい、何やら作業を始めた。
「アンタ、何やってんのよ。アタシをこのままどうする気?」聞いてくる百合の言葉を無視して、光一郎は、作業を続けた。
しばらくして、光一郎はトレーに何かを乗せて運んで来た。そしてトレーを百合の近くに置くと「ほら、口、開けえ」と言って、箸で黄色い物体を挟んで百合の顔に近付けた。
「何?これ」百合は分かっていたが、光一郎のギャップある行動に戸惑って、あえて聞いた。
「見たら分かるやろ?玉子焼きや。まぁ、関西風やから口に合うか知らんけど、何も食べささんとお前、死なしてもうたら元も子もないからな。早よ食え」
百合は仕方なく口を開けた。光一郎は、その口に奇麗に焼かれた玉子焼きを運んだ。
しばらく黙って膨れた顔で咀嚼していた百合は急に明るい顔になり「美味しい!凄い美味しいよ」と子供がはしゃぐ様に言った。
それを無視する様に、光一郎は無造作に玉子焼きを百合の口に運び続けた。
全て食べ終えると、光一郎は一旦、ロープを解き
「立て、そのままトイレに行っとけ」と言った。百合は言われるがまま、トイレに入り、用を足すと、光一郎は再び百合を柱に括り付けた。
「ワシは今から事務所に行ってくる。2~3時間で戻るが、寝たかったらそんまま寝とったらエエ」と言って、壁のスイッチを何やら操作すると、音楽が流れ出した。有線放送だ。そして、そのまま部屋を出た。
光一郎の部屋に一人残された百合だったが、何故か不思議と安堵感を感じていた。




