大人の遊び場
ようやく中学生になった光一郎は、大人を信用する事なく育っていった。
この頃から光一郎は麻雀荘やらパチンコ屋やら、とにかく大人の集まる場所に出入りする様になって行った。
それは大人に擦り寄ったり、甘えたりする為では無く、早く"大人"になる為だった。
小学生の頃に何気に入った将棋会館。
将棋と言う事で、子供が出入りしていても咎める大人は誰一人いなかった。始めは興味本位で大人達が打つ将棋を見ていたが、光一郎はある違和感に気付いた。
指し手達は真剣そのもので、負けた者はこの世が終わったかの様に悔しがる。そして、ポケットから数枚の千円札、中には一万円札まで出す者もいた。中でやっていた事は言わば金を賭けた賭博将棋だった。
光一郎は、これに食い付いた。「ワシも将棋、強うなったら金儲け出来るやん」
光一郎は、この会館で一番強い'サブロー'と呼ばれるオヤジに手解きを乞うた。
光一郎はサブローに将棋の指し方、手の先の読み方、そしてサブローが一番得意としていた振り飛車と言われる戦法を教わった。
そんなある日、「ボウズや、お前プロになるつもりで指しとんか?」と光一郎に聞いた。
しかし、光一郎は自分の置かれている立場を話し、一刻も早く施設を出て、一人で生きて行きたいと話した。
この言葉から、「この場所は言うてもうたら所謂社会のゴミやらクズやって言われとる大人が仰山集まっとるトコや。早よ、大人になりたかったらもっと別のエエトコがあるで」と言われ、連れて行かれたのが麻雀荘だった。
「エエか?ボウズ、麻雀はな、将棋よりかは、チョビっとだけ、ややこしい。でも、その分イカサマが使い易いんや」
そんなオッサン等と麻雀を打つサブローの姿を後ろから見ていた光一郎は、目を疑った。ツモった牌を手の内に隠していた牌と、巧みに入れ替え自分の優位な面子に変えてしまうのだ。
それに、サブローはダマツモと言って、引いた牌を見ずに親指の感覚だけで、それが何の牌か知る事が出来た。
その分、牌のすり替えが、し易いと言う訳だ。
こうして光一郎はイカサマ以外にも生きて行く為の色んな事を教わった。
生きて行く為のと言ってもこのオヤジ等に"社会のルールに沿う"と言う考え方は無かった。
「そもそも、警察に捕まらへんかったら何やってもエエんや」
サブローはそう言ってこの世界の考え方を教えて込んで行った。
光一郎からしたら綺麗事ばかり言っている施設の大人より"よっぽど頭エエわ"と思っていた。
「大体、綺麗事をいくら言うても死んでしもたら何もならへんやろ?」そんなオヤジの言葉の方が、光一郎には正しく聞こえた。
そして中学生くらいから、この大人の遊び場に「ワシはこの子の保護者や」と言って出入りさせてもらい、本格的に'イカサマ雀士'としてデビューした。
そこで本当に雀の涙くらいの小遣いを何倍にもしていった。
もちろんサブローから教わったイカサマを使って、これまたサブローから教わったカモに狙いを定めて少しづつ持ち金を増やして行った。