タマテツの過去
「ただいま帰りました」光一郎は肩に傷だらけの彰を担いで岡山組に現れた。
「何や?どないしたんや?」ソファに座って寛いでいた玉野は驚いて立ち上がった。
光一郎は彰をソファに降ろすと「備後組です!備後組のヤツらが、コイツを拉致ってワシに一人で来いと連絡して来よったんです」彰は"ウウッ"とうめき声を上げて寝返りを打った。
「まぁ、取りあえず座れ。詳しゅう聞こやないか?」
玉野は光一郎にソファに座る様に促した。光一郎は腰を降ろすと「若頭、多分やけど、コイツ拉致ったんは、東京から来てる幹部連中やと思います」光一郎は横で横たわる彰の腰辺りを擦りながら言った。
「何やと?東京?おい、市橋、あれ…写真や」玉野は傷が癒えた市橋に、奥のデスクに目配せして言った。そして市橋から受け取った四枚の写真を光一郎に向けてテーブルに並べた。
「この四人はな、備後組のビッグ4と呼ばれとるヤツらや。こん中にソイツはおらんか?」
光一郎は写真に目を通して行って、左から二番目の写真を手にした。
「コイツですわ!この真っ黒いサングラス、間違いありません」それを見た玉野は暗いブラウンのサングラスからでも分かるほど目を見開いて、光一郎から写真を奪い取った。
「磯貝…このクソミソやったんか?なるほどのぉ」写真を手にする玉野の右手が小刻みに震えていた。
「若頭?どないしたんです?」ただならぬ玉野の様子に光一郎は嫌な気持ちを抱えた。
「ハイエナの磯貝や!コイツは極道や無い!汚い事で、のし上がって力を持っただけの、ただのチンピラや」横に立っていた市橋も、小刻みに身体を震わせて口を挟んだ。
「せや!光一郎、コイツは極道の風上にも置かれへんハイエナや」そう言うと玉野は写真をグシャと握り潰した。
「若頭、後はワシが話すんで、アニキは奥で休んどって下さい」
市橋は玉野を奥の部屋へ誘うと、直ぐに戻って玉野が座っていた場所に座った。
「光一郎、磯貝はな、アニキの娘さんをレイプして、死に追いやったヤツや!そんで、アニキの報復を恐れて東京に逃げて行きよったんや」光一郎は耳を疑った。事実上、自分の父親である玉野に、そんな過去があったとは…
「そんなん、若頭が東京に追いかけて行ってコロしたったら良かったんちゃいますん?」珍しく光一郎は感情的に喋った。
「そこが、アニキの凄いトコや!アニキは私的な感情を押し殺して、大阪を盤石にするまで大阪を離れへんと言わはった。備後組の打ち込みにワシは行かれへんかったけど、東京進出をデカイ声で吠えはったんやろ?そん時に、多分アニキの脳裏には、ハッキリと磯貝の顔が浮かんどったと思うぞ」
何もかもが信じられない話しだった。光一郎とて、親切な人や優しい人に囲まれて育った訳ではない。しかし、こんなにも、人間からかけ離れた外道の話しは聞いた事も体験した事もない。どんな人間も最後には人間らしさや、その人が持つ美学の様なものを見せるものだ。
「クソ!そんなん知っとったら、あん時コロしたったのに」光一郎は両手の拳をテーブルに叩き付けた。
「光一郎、それはアカン!あんなクソミソ殺して、お前が刑務所に行く様な事になったら、アニキはもっと悲しむ!エエか?光一郎、アイツには手を出すな。アイツの処遇はアニキに決めさせたってくれ」市橋の言う事は最もだと光一郎は思った。
「ほなら、ワシ…どうしたらエエです?ワシに出来る事は何ですか?」光一郎は訴える様に叫んだ。
「東京や…お前のお陰でアイツは必ず、また東京に逃げよるはずや。決着はアニキが東京でつける事になるやろ」市橋の言葉にも悔しさを噛み殺す感情が含まれている事が光一郎には分かったか。




