突入
光一郎は備後組の事務所がある雑居ビルから少し離れた大通りでタクシーを降りた。セカンドバッグからジャックナイフを取り出すと、刃を出した状態でジャケットの内ポケットに滑り込ませ、セカンドバッグを腰の部分のスラックスの中にねじ込んだ。
「武器はこれだけか…」
つぶやきながらビルがある側に背中を向けて、ビルの二階に気を配ってビルの入り口まで辿り着いた。
一階は喫茶店になっており、グリーンの伸縮式のテントが歩道の方まで突き出している。光一郎はテント越しに自分の姿が見えない様に気遣いながら二階部分の窓ガラスを見た。
「ヤツ等、警戒は薄そうやな」光一郎は、出来るだけ音を立ない様に、二階まで上がった。
「アイツ等、岡山組と違うて警戒、甘々やな? これやったら行けるかも!」
光一郎は事務所の前に着くと、事務所前に何やら書類でも入っていそうなダンボール箱が五個、積み重なっているのを確認した。
そして擦りガラスになっている上部を避けて、ガラスに人影が映らない様にソッとドアに耳を当てた。
「若頭!タマミツか何な知らんけど、コイツ居ったら手も足も出まへんで」少し甲高い声がした。これは電話の主ではない。
「アホたれ!お前等がそんな体たらくやから、こんなクソガキ共にエエ様にされとんやろ!油断すんな」この声だ。この男が頭だろうと光一郎は読んだ。
光一郎は、もうしばらく、部屋の中の様子を想像しながら耳を当て続けた。
「分かる!位置関係がよう分かる!中に居る備後組のヤツらは5人や!
…一番奥に頭がドカッと座っとる。
それから、1m…イヤ、1.5m位のトコに彰が拉致られとって、1人は何か分からんけど、武器で彰を押さえてて…もう1人横に居る…けど、チョイ油断しとるなぁ」
光一郎は突入に備えて、もう少し様子を探った。
「なるほど…問題はドアの左右に控えとる2人やな!せやけど、幸いこのドアは引き戸や!押戸やったらドアが邪魔して片一方を仕留めんのにとまどるけど…大丈夫や!手前の2人を瞬殺して、一気に彰のトコ行って…ヨシ!作戦は決まった!」
後は突入のタイミングを測るのみだ。光一郎は毛穴を全部拡げるイメージで感じ様と試みた。中の連中が一瞬、緩む瞬間を逃さぬ様に精神を集中させた。
「ヨシッ!今や!」
光一郎はここ一番のタイミングでドアノブを捻ると同時に、ドアを思いっ切り引いた。そしてドア付近の2人のアキレス腱にジャックナイフを入れるとその足で真っ直ぐに彰に向かって進んだ。そして彰を捕まえると道路側の窓ガラス目掛けて放り投げた。
"ガッシャーン"派手な音を立てて、彰は落ちて行った。
そのまま、一番奥の磯貝の首元にナイフを突き付けて「どないすんねん?このオッサン、コロしたらエエんか?」と言いながら壁を背にドアの方に横歩きで近付いた。
他の連中は、手も足も出ない感じで指を咥えて見ているしか無いと言った状態だった。完全に背中がドアの入口まで来ると、磯貝の背中を部屋内に蹴飛ばしてドアを閉めた。
そして前に置かれていたダンボール箱をドアの前に並べた。
飛び降りる様に下に降りた光一郎は彰の方に駆け寄った。
光一郎の計算通り、一階の喫茶店のテントにバウンドして何とか助かっていた。倒れている彰を背負った光一郎は大通りまで出ると、タクシーを捕まえ、岡山組の事務所に向かった。




