ピロローグ
ワシは、産まれた時から何も持ってへんかった。
地位も名誉も金も、愛も居場所も…
あっ、スマン、一個だけ持っとったわ!
名字は知らんけど、名前は光一郎!
たったこれだけがワシの財産や。
普通って…何の事か、分からんけど、人は誰でもワシよりかは、マシなもん持って産まれて来とるんやろなぁ。
ワシが知っとる限りの話やけど、ワシの一番小こい時の話を聞かしてくれるんは、何や、"ようごしせつ"っちゅうトコの先生とか言う人らで、その"ようごしせつ"の門の前に捨てられとったらしいわ。
ワシの回りには何もなくて、ただ、ワシを包んでた、お包みと"名前は光一郎です"って書かれた紙だけやった。
そんな中、気ぃ付いたら"ようごしせつ"っちゅう檻の中で動物園のゴリラか何かみたいに暮らしとったわ。
食べもんはちゃんと与えてくれる。
せやけど何が食べたいかまでは聞いてけぇへんし、言う事も出来へん。
玩具も与えてくれる。
でも、元々そこに置いてあって、何年使こてるか分からんような物だけや。
そもそも好き好んでここにおる訳やない!
大人の都合で連れて来られただけや!
そのうち、学校へ行かなアカンからと言う事で、国の何ちゃらとか言う制度を使こて"ようごしせつ"の一番エライ先生の"田中"っちゅう名字を与えられて"田中光一郎"って名乗らされた。
大人らは何時も言うとったなぁ。
アンタが大人になった時の為に言うてるんやから言う事を聞きなさい!アンタを想てるから言うてるんやで!
もっと廻りの人を愛しなさい!
そんな言葉聞く度に「コイツらアホちゃうか」って思とったなぁ。
とにかくキーワードは"大人"や!
誰かが決めた大人やない。
ワシ自身一人で生きて行けるってなった時、この檻から脱走したる。
それまで何も言わんと我慢してやり過ごすんや。
ワシ自身が決めた"大人"になるまで…