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呪いの転生者は神殺しを望む  作者: 穂波じん
一章 転ぶ生
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第2話 団らん

 父の肩に揺られて家に帰ったエリックは、母が用意してくれた夕食を両親と食べていた。

 今日の夕食はライ麦の粥に幾つかの葉野菜と肉のかけらを混ぜ、少々の塩と乳で味を整えたものだった。肉が入っているとは、今夜はなんとも豪勢である。

 肉が入っているじゃないかと嬉しげに問う父に、母は隣の猟師夫婦からのお裾分けだと答えていた。


「ところで、お隣の奥さんから聞いたのだけど、最近森の魔物が増えてきているそうよ」

「そうなのか。畑仕事をしている時には特に魔物の気配は感じなかったが……、そのうち村の方へ出て来る魔物もいるかもしれんな。

 明日からは少し注意するよ」

「うん、気を付けてね。あたしも、なるべく村の中の方でエリックの面倒を見ることにするわ」

「南の方では沢山の魔物に村や街が襲われたって話もあるらしいしなぁ。

 でも、大丈夫さ。俺には自慢の鍬も有ることだしな」

「本当に気を付けてね?

 南の方のって、確か魔王軍の人間狩りでしょ? こちらに来なければ良いのだけれど」

「まったくだ。早く勇者様が魔王を討って平和にして下さらないものかなぁ」

「そうよね。でも今代の勇者様は、もう随分お年だから……」


 深刻な顔をしながら両親が交わす言葉に、エリックは耳をそばだてる。



 両親の話に出てくるようにこの世界には魔物がいる、らしい。それは普通の動物と違い、他の生き物を見かけると見境なく襲いかかる、とても凶暴な生き物だという。そして、それら魔物を統べる『魔王』と呼ばれる存在がおり、時に魔物を軍勢として率いて多くの村や街を焼き、殺し、奪っているらしいのだ。

 一応、魔王に対抗できる『勇者』なる存在もいるらしいのだが、軍で以って幅広く各地に襲撃を掛ける魔王に対して少数精鋭の勇者一行ではなかなか対処が追いついていないらしく、毎年何処かしらで犠牲が出てしまっている。それに加えて今代の勇者は既にかなりの老齢であるらしく、その事がさらに人々の不安を掻き立てているらしかった。

 転生前、闇の中で(アイツ)はこの世界の事を楽園(・・)と称していたが、とんだ楽園があったものである。


(父さんは魔物に注意するなんて言ってたけど、大丈夫なのかな?

 母さんなら魔法を使えるみたいだけど、父さんが使ってる所見たことないしなぁ。ただの農家だし。鍬だし)


 それに、とエリックは思う。


(アイツ)はただ生きていれば良い、みたいな事を言っていたけど、このまま何も仕掛けてこないとは正直信じられない。

 (アイツ)が押し付けた災い避けの祝福も……まあ、確かに、今の所効果があるみたいだけど、『厄年』でもそうだとは限らない)


 そう、大変驚くべきことなのだが、この世界に産まれてからエリックは前世で日常となっていた種々の不幸とは全くの無縁で過ごしてきていた。鳥のフンも落ちなければ、急な雨に振られたこともない。信じがたい事だが、神から押し付けられた災い避けの祝福とやらはまともに機能しているらしかった。


(それに、僕がただ生きていればいいだけなら、どうして僕の記憶はそのままにしたのかも、よく分からない。人の運命を変えて殺せるのなら、記憶を消すだけなんて簡単だと思うんだけど。

 ……兎も角、五歳を無事にやり過ごすまでは警戒を怠らないようにしないと)


 考えている内に食事を終えたエリックは、未だに父と話し込む母にぼんやりと目を向ける。柔らかく細められているその青い目は、父に言わせるとエリックとよく似ているらしい。


(母さんが魔法を教えてくれたら出来ることも増えるんだろうけど、何度頼んでも十二歳まで待ての一点張りなんだよなぁ。なんでだろ?

 ……そういえば、家には魔法書どころか本の一冊すら無かったけど、母さんはどうやって魔法を覚えたんだろう)


 浮かんでは消える様々な疑問に浸っている内、昼に遊んだ疲れが出てきたのかエリックはいつの間にかコクリコクリと船を漕ぎ出していた。

 その様子に気付いた母が静かに席を立つ。


「あら、そろそろエリックはお眠みたいね」


 母の声が聞こえて、エリックはハッと目を開ける。が、目蓋に鉛でも仕込まれたかのようにまたすぐ重くなってくる。


「今日はたくさん遊んだものね。ほら、お口を開けて」

「ん…………」


 うつらうつらとする意識のなか、エリックは母に促されて口をぼんやりと開く。


「うん、良い子ね。発動(エグゼ)『クリーンナップ』」


 弛く開けられたエリックの口へ手を翳して母が魔法の言葉を唱える。言葉に合わせて薬指の指輪が淡く輝き、翳された手の隙間から薄い紫色の光が溢れる。


「さ、これで寝る準備は済んだわね」


 母はそう言ってエリックを優しく抱き上げると、ベッドへ寝かしつけた。


「お休みなさい、私達の可愛いエリック」


 母は小麦色の髪を優しく撫で付けてお休みの口付けしたエリックの小さなおでこにする。


「母ぁ……」


 そのまま優しく上掛けを掛けて離れようとする母の裾を掴んで、エリックは母に呼びかけた。どんなに眠たくても、エリックはいつも母に昔話をねだっていた。それは元々は少しでもこの世界の事を知ろうと思ってねだり始めたことだった。

 エリックの小さな手に母は弛く微笑むと、手近な椅子を引き寄せてそこへ腰掛けた。


「それじゃあ、今日も何かお話してあげよっか。

 そうねぇ……それじゃあ今日は私達の大切なご先祖様のお話。かつてあった楽園と、そして魔王と勇者様の始まりのお話にしましょうか」


 そう言って、母はゆっくりと語り始める。



 エリックがこの世界に生まれてから幾度ともなく聞かされた、この世界の始まりのお伽噺。今この時も連綿と繰り返される勇者と魔王の戦いの、その最初の物語。



 時折はぜる薪の音を子守唄に、母は柔らかなリズムでエリックを寝かしつけながら静かな声音で物語を紡ぐ。



 それは、幼く細い寝息がその和に加わる迄続いけられたのだった。


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