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呪いの転生者は神殺しを望む  作者: 穂波じん
二章 呪いと祝福と
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第3話 三年間

とても嬉しいことに、この度レビューを頂きました。ありがとうございます。

これを励みに、今後も執筆に励んでいきたいと思います。

また、全ての読者のみなさんに、いつも本作を読んで下さり、ありがとうございます。

 この世界は『楽園』である。


 人間にとって、きっとそれは間違いないのだろうと、ノゾムは思っている。


 なんと言っても『楽園』の力によって与えられる『タスク』だ。あれを得るだけで、その『タスク』に相応しい知識、技術、身体能力、そして魔法までもが与えられる。

 最低限必要な日々の労働は魔法で楽にこなせるから半日で終わり、後の半日は誰もが思い思いに過ごしている。働く時間も自由だ。朝でも、昼でも、夜でも。

 付け加えて、どれ程日々遊び呆けていても年を取るとともに『タスク』のレベルは勝手に上がっていく。レベルが上がれば技術も収入もレベルに見合ったものに上がる。


 努力という言葉が廃れるのも納得できる世界。


 前世で中学までしか生きられなかったノゾムは勿論働いたことなど無いが、それがとても幸福なことなのだと、この世界の人間を眺めていて感じた偽らざる感想であった。

 たとえ、すぐ隣に魔物や魔王という、命を脅かしうる存在がいたとしても、だ。





 では翻って人間と認められなかった者達にとって、この世界はどうなのか。


 端的に評するならば、それは地獄である。


 ノゾムはこの三年間、それを嫌という程思い知らされてきた。


 ノゾムは王都にたどり着くまでの間、各地を転々とする生活を余儀なくされてきた。

 (アイツ)の情報を探すという側面も勿論あったのだが、最大の理由はノゾムが『タスク』を持たないことに起因している。


 この世界では、『タスク』を持たない者は唯それだけで他の人間たちから忌み嫌われ、或いは存在すらも無視される。あの、王都にいた孤児たちのように。

 そんな世界だから、当然孤児たちには誰も手を差し伸べたりしないし、施しをするような組織も無い。

 空腹に食べ物を買い求めたくても、そもそもこの世界の経済は『楽園』の力の上に成り立っている。『タスク』を持たない者達では買い物という行為すら出来ないのだ。パンの一欠片など、夢のまた夢だ。

 だから孤児たちは真空のような人間達の群れの中で、路傍に僅かに貯まる泥水をすすり、残飯を漁って糊口を凌ぐ。


 それは勿論ノゾムとて例外ではなく、いっそ魔王城で奴隷として働かされている頃の方がマシに思えてしまうような日々だった。

 何しろ、食事と衣類は最低限保障されていたのだから。



 ――――それに何よりも、あの頃は隣にテサが居た。



 暫くして、マールから渡されたものが木幣という、この世界の金の代替手段であると分かってからは多少ましになった。孤児に見えないよう、ある程度身なりを整えたりもした。

 が、そもそも木幣は店主にとっては面倒なものらしく、小口の買い物では相手にされないか相当にボッタクられるかすることも少なく、更には同じ店でまた木幣で買い物しようとすると、亜人とばれて追い出されてしまう。


 ノゾムが各地を転々とせざるを得なかったのは、そのためだった。


 木幣での支払いは宿から拒否されるため、結局何処へ行っても野宿は当たり前。漸減する所持金を補うため、安易に傷の治療を路上で売ってみれば質の悪い傭兵団に拉致されてしまったこともあった。

 その傭兵団で受けた言葉通りの道具扱いの日々は、タスクを持たない亜人達と、この世界の()()達との隔絶をノゾムに知らしめるには十分に過ぎるものだった。



 この世界は地獄。人成()ざる者にはどうすることも出来ない、悪辣の世。



 だからこそ、あの胡散臭い女(アシュリー)に手渡された依頼の内容にノゾムは少なくない衝撃を受けていた。

 同時に、なぜ自分にこの依頼が回ってきたのかも、理解が出来るものがあった。


「……ようやく抜けたか」


 ひたすらに鬱蒼と生い茂る深い下草をかき分け続ける行程がついに終わり、視界が開ける。

 爽やかな風が太陽の光とともに舞い込んで、鮮やかな景色がノゾムの目に飛び込んできた。

 カルデラ跡なのだろうか。周囲はぐるり山に囲まれている中に平地が広がり、幾つもの青々とした畑や山から引き込んだ水を湛えた溜池が見える。

 中心部には大小様々な木造の家が立ち並んでいる。


「あれが、『タスク』を持たない人達の隠れ里なのか」


 ノゾムは眼下に広がる集落を複雑な心境で眺めていた。

 王都から西へ発って約一ヶ月。西壁山脈の急峻な山に分け入った先で、ノゾムはようやく目的の集落へと辿り着いていた。

 手紙に書かれていた依頼内容とは、この隠れ里に現れた魔物を退治して欲しい、というものだった。


 山から吹き下ろす風を受けて、風車がゆったりと回っている。

 その長閑で穏やかな雰囲気にノゾムは暫し見入っていた。


「村って話だったが、街って言った方が正確じゃないか。

 ……そうか、こんな所が、あったんだな」


 もしも――――、そんな考えが一瞬脳裏をよぎり、それを首を振って消し去る。

 どちらの可能性も、考えるだけ虚しいものだ。


 ノゾムは太陽の傾きを確認し、今から向かえば到着は日没頃になると当たりをつける。


「となると、少し戻ってから野宿が一番良さそうだ。

 途中、丁度良い空き地もあったはずだ」


 ノゾムはもう一度だけその平和な景色を眺めてから、隠れ里に背中を向けた。

 深い森の中には、早くも暗がりが広がり始めていた。


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