1ー8 第二ステージ?
まだ相対する巨漢との距離は数十メートルほどある。にも関わらず、凄まじいプレッシャーに自然と足がすくむ。
「な、何よこれ……」
「私も彼にこんな威圧感を感じた事はありません……」
隣に並ぶ二人も気圧されている様だ。
「セパルが編み出した闇の禁術だ。あいつめ、ショウを利用しておる」
「どういう事だ?」
「話は後だ。来るぞ!」
警告の声とほぼ同時に、ロギが腰を落として構えを作る。
……あれは……!
「みんな俺の後ろに隠れて!」
促してから目の前に光の障壁を展開する。そして、さらに危機を察知したカエデがその前に氷の壁を作り出す。
直後、猛烈な勢いで赤黒い衝撃波が到達し、氷の壁をいとも簡単に破壊した。というより、溶かした。そして、光り輝く障壁とぶつかり、凄まじい衝撃を生み出した。
「クッ!!」
「わぁ!」
4人全員の体が宙に飛ばされる。なんとか直前にリアの手を掴んだ俺は、受け身をとって衝撃を和らげた。
「グッ……!」
「おお! 素晴らしい献身だ! 漸く我の家来としての自覚が……」
「誰が家来だ!」
口を挟みながら身を起こし、周辺を確認した俺の視界に、まだ立ち上がることの出来ていない少女に猛然と迫るロギが映った。
「避けろ!」
障壁を展開するが、左脚の一閃でいとも簡単に破壊される。
くそっ! 間に合わない!
そう思った瞬間、不意にロギの動きがピタリと止まった。
そして、突然頭を抱えて苦しむ様な素振りを見せ始めた。
尻餅をついている少女も、驚いた様な表情で目の前の大男を見ている。
「ロ……ロギさん?」
「くっ……くぅ……!」
苦悶の表情を浮かべるロギに少女が問いかける。駆け寄った俺たちが少女の隣へ並んだ頃、ロギは漸く頭を上げた。
「……こ、ここは……?」
「ロギさん! 洗脳が解けたんですね!」
少女の顔がぱぁっと明るくなる。
「サチカ。すまない、迷惑をかけた」
「そんな事は! 私は貴方のおかげで助かったんです。それなのに……私あの場から逃げて……」
「いや、よく逃げてくれた。無事でよかったよ。そして君……」
サチカと呼ばれた少女に不器用な笑顔を向けた後、ロギは輝きを取り戻した瞳で俺を見据えた。
「ぼんやりと覚えている。サチカと一緒に俺を止めてくれた。本当にありがとう」
「い、いえ。俺はそんな……」
「謙遜しなくていいよ。それより君に頼みたいことがある」
「なんですか?」
「俺を殺してくれないか?」
「「え!?」」
「な、何を言っているのですか!?」
一様に衝撃を受ける俺たちと違い、リアはいたって冷静に口を開いた。
「禁術を解く為……だろう?」
「……ああ」
リアの容姿に一瞬驚いた表情を見せたが、直ぐに切り替え答えるロギ。
「どういうこと?」
「まだロギにかかった禁術は解けていない」
「どうして分かるのですか!?」
「かつて我も同じ力を持っていたからな」
表情を変えないままカエデとサチカの疑問に答えるリア。その受け答えを聞いていたロギが得心した様子を見せた。
「力を失うと容姿も変わるのか、アルトリア」
「え?」
「漸く分かったか、ロギよ。久しぶりだな」
「え? ちょっと……」
「ああ。あの時はすまなかった。君の話に耳を傾けていれば……」
「仕方ないさ。なんせ我は魔王だからな」
明らかに混乱しているサチカを脇に続いた会話が途切れると、ロギが意を決した様に俺と目線を合わせた。
「さぁ、時間がない。アルトリアのいう通り、俺に掛けられた禁術は解けていないし、その影響か自傷も出来ない。そして、どういう訳か勇者の力を持っている君なら俺を殺すことが出来るはずだ」
「え……でも……」
「無茶な注文をしている自覚はある。だがこれしか手がないんだ」
紅く、暖かく燃える瞳を向けながら、一呼吸空け、ロギは頭を下げた。
「頼む。俺が俺でいられる内に。俺のことを殺してくれ」




