1−7 第一ステージ
途切れる事なく繰り出されるロギの拳を紙一重で回避し続ける少女。躱しきれない攻撃は、俺が障壁を作り出してカバーする。
どうしても小さなダメージは避けられなかったが、それでも即席の連携でどうにか戦況を保てていたのには二つの理由があった。
一つはロギの戦闘スタイルが一対複数に向いていない事。武器を持たない為、二人掛かりで守りに徹すれば、スピードに付いていけなくても互いのフォローでどうにかなる。
そして、それより遥かに重要な二つ目の理由は、少女の強さ。本来、風の魔力は、様々な使い方が出来るものの、他の魔力に比べて直接的な戦闘に向かない。と言うのも、他の魔力に比べて威力、強度共に劣るからだ。
その為、氷の魔力を併せ持つカエデの様な例外を除けば、先程少女が使用した身体強化の魔法や、テレパシーなどでパーティーのサポートに回るのが基本だ。
実際に、最初手にしていた具現化武器が杖であったことや、身体強化魔法の絶大な効果を考えれば、彼女がメインとするのはサポート役としての立ち回りだろう。
にも関わらず、近接戦闘において武闘家とある程度渡り合えていることは、偏に彼女の強さを意味していた。
そう。魔力を感知した時の、リアの様子から薄々察してはいたが、この強さ、そしてこれまでの立ち振る舞いから確信に至った。
彼女も旧勇者パーティーの一員だ。そしてセパルとやらに操られていない。
つまり、ありとあらゆる観点から見て、決して失うわけには行かない。
「……よしっ!」
痛む体に鞭を入れる為に短く気合を入れ直したその時、離れたところから発生した氷の波がロギの足元まで到達し、数瞬の間、動きを止めた。
これは……!
瞬時に状況を理解し、少女の目の前に光の剣を具現化する。
「今です!!」
少女は一瞬、驚いたような表情を見せたが、流石の反応速度で剣を握り、舌打ちと共に後方へ回避しようとしたロギの身体へ向かって両手で振り下ろした。
「はぁあ!!」
「グァァ!」
気迫のこもった声と図太い叫び声がほとんど同時に聞こえ、次の瞬間。紅蓮のオーラを纏った巨漢が吹き飛ばされた。
凄まじい衝撃音と共に何度も地面へ叩きつけられたロギは、数十メートル先で大の字に倒れたまま動きそうにない。
「……よしっ!」
小さくガッツポーズを作ってから、氷の波が発生した方向を向く。
リアを背負ったカエデが、猛烈な勢いで走ってきていた。
「大丈夫?」
「ああ、お陰様で助かったよ」
「手痛い一撃を貰ったようだな」
「まあね」
一先ずカエデに感謝を述べ、リアのニヤついた顔から目線を背けてから、ふと頭に浮かんだ疑問をぶつける。
「でも、どうしてテレパシーで近づいたことを伝えてくれなかったんだ?」
「レンがテレパシーに反応すると私達が近い事がバレるからね。不意打ちの為よ」
「なるほどね……」
「まあ、そこの女の子は魔力感知で私たちの接近に気づいてたみたいだけどね」
そう言われてカエデの視線を辿り、何故か恥ずかしそうに目線を下げる少女に声をかける。
「本当にありがとう。助かったよ」
「い、いえ! そんな事は! と、と言うより助けられたのは私の方ですからっ!」
早口でまくしたてる少女に思わず笑いそうになってから、そう言えば、と思い出して尋ねる。
「君は旧勇者パーティーの一員だよね」
「え?」
「……」
驚きの声を上げるカエデと、何かを考える様な表情になる少女。数秒の静寂の後、ゆっくりと口を開いた。
「……ロギさんや、私がいたパーティーには勇者、葉さんもいました。あなた達が現勇者パーティーなら、確かに私は旧勇者パーティーの一員です」
「やっぱり! あそこまで強いから……」
「お前たち、談笑もいいが、奴はまだ気を失っておらんぞ」
「「「え?」」」
カエデの背から降りたリアの忠告に俺たちが耳を疑った直後、その耳を塞ぎたくなる様な爆音が周囲に響き渡った。
嘘だろ……?
あのダメージで、あの衝撃を受けて。まだ立てるのか?
しかも、立ち上がった巨漢が纏うオーラは、先ほど纏っていた紅蓮のオーラより遥かに禍々しく、黒と赤がごちゃ混ぜになったものに変化している。
その姿に思わず後ずさる俺たちとは対照的に、リアは鋭い眼光でロギを睨めつけた。
そして、既に何度も見た表情と違わず口角をニィっと上げ、俺たちに檄を飛ばした。
「さぁ、気張れよ。お前たち。第二ステージだ!」




