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(元)魔王と目指す「HAPPY END」  作者: 藤沢 空
1章 楠木蓮の勇者録
7/9

1−6 実力差と最善手

 何とか間に合った……。


 眼前に立つ筋骨隆々の大男を見据えながら、短く息を吐く。

 ふざけた威力の一撃だ。間一髪作り出した光の障壁がいとも簡単に破壊されてしまった。

 しかも、恐らく今の一撃は本気ではない。

 どうやら旧勇者パーティーは、今まで俺が手合わせしてきた人物や、倒してきた魔物とは根本的に強さの次元が違うらしい。

 改めて気を引き締め直し、振り向くことなく背後の俺と同じか、少し年下位の容姿をした少女に声をかける。


「俺が前に出るので、フォローをお願いします」

「はっ、はい!」


 強烈な威圧感を放ちながら、俺たちがいる方へ歩いて来るロギが、深く響く声色で問いかけてきた。


「君は何者だ?」

「……勇者だ」

「え!?」


背後の少女は驚きの声を上げたが、ロギは一切表情を変えない。


「やはりアルトリアが生きていたか。往生際の悪い」

「だったら何だ」

「いや、いずれにせよ魔王様に反発する勢力は潰すだけだ」


 ……威圧も兼ねて勇者であることを知らせたが、ロギは眉一つ動かさず、再び戦闘の姿勢を取る。


「あ、あのっ!」

「はい?」


 警戒を解かないまま背後に耳を傾ける。


「先程彼が放った一撃はまだ半分程の力しか出していません! 気を付けて下さい!」

「まじか……」


 思わず本音がこぼれてしまう。本気でないことは感じていたが、まさか半分とは……。

 思わず弱気になるが、その直後、俺の身体を覆った風の魔力により、急激に身体が軽くなる。その風魔法による能力強化は、今まで数多く経験した強化魔法の中でも群を抜いていた。


「これは……」

「強化魔法をかけました! サポートは任せて……。わぁ!」


 言葉が終わる前に少女へと攻撃を仕掛けようとしたロギと少女の間に割って入り、攻撃を具現化した光の盾で防ぐ。やはり彼女の強化魔法によって、身体能力が大幅に強化されている。


 これなら……!

 

 次々に繰り出される拳をかろうじて回避しつつ、一瞬の隙を狙う。

 瞬間、俺の背後から放たれた、若葉色に煌めく弓矢がロギのほおを掠めた。流石の巨漢も舌打ちとともに僅かながら身を仰け反らせる。


「今です!!」


 後方からの力強い声と同時に、剣を具現化させつつ懐に入り込み、左腰から思いきり切り上げる。その刀身が、回避より早く、ロギの身体へ到達する。


「もらっ……! ……は?」


 何が起きたか分からなかった。気がつけば身体が砕け散りそうな凄まじい衝撃と共に、俺は町の入り口に最も近い建物の壁へ叩きつけられていた。


「……グッ……が……!」


 上手く息が出来ない……! 体がバラバラになったかの様な感覚だ。

 何とか動く左手を自身の胸にかざし、家の外壁に背中を預けたまま治癒魔法をかけ始める。そして、混乱する思考回路のまま、数秒前に起こったことを反芻はんすうする。


 確実に俺の剣は届いていた。そして、ロギの左脇腹へと到達し、更に力を込めたところで……。刀身が真二つに折れた。人間の体に、最高の硬度を持つと言われている光属性の刃が負けたのだ。

 余りにも実力差がありすぎる。ロギと、そしてあの少女とも。

 そう認識した矢先、頭の中に声が響く。


(大丈夫ですか!?)


 直ぐに少女の風魔法によるテレパシーであると分かり、返事を返す。


(ああ……。なんとか)

(良かった……! すみません。戦いに巻き込んでしまって……!)


 謝罪の言葉によって、かえって返答に詰まってしまう。


(い、いや……)

(町の人を連れて町から逃げてください! 中心部の集会所に皆集まっています!)

(君は……)

(なんとか時間を稼ぎます! 急いでください!)


 音が切れると共に、町の外で戦闘音が響き始める。

 少女にとっては最善策だろう。一対一では分が悪いとは言え、彼女ならある程度の時間は稼げるはずだ。そして、只でさえ二人と大きな力量差がある俺が、手負いで向かった所で出来ることはたかが知れている。

 それでも、あの少女を犠牲にする選択など、出来るはずが無い。


「……よしっ……!」


 俺はまだ動ける。カエデとリアが来るまでしのぐんだ……!

 折れそうな心と震える足に無理やり気合を入れ、俺は立ち上がった。

 



_____________________________________

 


 

 

 フラつく足取りでどうにか入り口の門まで到達した。

 門の外では、凄まじい戦闘が繰り広げられている。


 一対の短剣を具現化させ、無数の手数てかずでロギに斬りかかる少女。それを、表情を変えないまま目で追えない動きで回避するロギ。

 しかし次の瞬間、ロギが「シッ!」という鋭い声と共に振り抜いた右足が、一振りで二本の短剣を弾き飛ばした。

 短い悲鳴をあげながら少女が後ろに仰け反り、すかさずロギが追撃にかかる。


「危ないっ!!」


 瞬時に少女の前に障壁を展開する。直後、ロギの拳と衝突した障壁は、辛うじて破壊されることなく衝撃を抑えきった。

 即座に二人の目線がこちらに向く。俺は少女に向かって、耳を指差すジェスチャーをする。


「生きていたか。だが、立っているのが精一杯の様だな」

「……お陰様でな」


(どうしてっ……!)

(もう少しで仲間が来ます)

(え?)

(俺の攻撃は届きませんが、守りに徹すれば簡単にはやられません)

(……)

(フォローします。すみませんが、もう少しだけ耐えてください)

(……分かりました。有難うございます!)


 複雑な感情を持った声色ながら、少女は提案を受け入れてくれた。

 少女に戦わせ、フォローに回る。従来なら最高にカッコ悪い選択だが、俺は、今俺が出来る最善手に徹する。


「テレパシーか。小細工を練ったところで差は埋まらんぞ」

「そうとも限らないさ」


 両手で強く叩き、足の震えを止める。改めて短く気合を入れ直してから少女の方へ目線を送り、小さく頷き合った。


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