1−5 風の魔法使いvsロギ
道中の森林地帯を抜け、視界が開けた瞬間、エンジュの周辺に煙が上がっているのが見えた。
ただ、幸いにもまだ町の中に火の手が上がっている様には見えない。そして、うっすらと町の周囲には竜巻の様なものがいくつか見える。恐らくリアが言っていた風の魔法使いが町の外でロギと交戦しているのだろう。
あと少し堪えてくれ……!
祈りつつ、改めて足に力を込め加速した。
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(一体どうすれば……。)
眼前の巨漢を見据えながら、少女は頭を限界まで回転させていた。
(エンジュから遠ざかる様に走り出す? いや、必ず私を追ってくるとは限らない。会話でロギさんの洗脳を解く? もう何度も試みた……。)
結局、「この場でロギを倒す」以外の選択肢は無い。無いのだが、ロギは到底自分の力が及ぶ相手ではないことも、少女は痛いほど理解していた。
(どうしよう、どうしよう……。……え? この魔力って…………)
こちらに向かって猛然と近づいてくる魔力を感知した少女は、その魔力が懐かしささえ感じる光の性質を秘めていることに気づき、少女は驚きと共に一抹の期待を抱く。
その一瞬の隙をロギは逃さなかった。瞬時に距離を詰め、拳を構える。
(しまっ……!)
慌てて杖を前に出し防御姿勢を取ったものの、振り抜かれた拳の凄まじい威力を抑えられず、少女は町の外壁まで吹き飛ばされる。
「ガハッ……!!」
「もう諦めたらどうだ? 今ならまだ魔王様も許してくださるだろう」
ゆっくりと近づいてくるロギの瞳に、かつて少女が慕っていた頃の輝きは無い。
「魔王様って……何ですか……!! 一緒に旅した仲間のことも忘れたのですか!?」
「? 何を言っている?」
「全部思い出させてみせます!」
少女は杖に力を込め、目の前に強力な衝撃波を起こした。そして、回避の為咄嗟に飛び退いたロギは、その場で深いため息をついた。
「そうか。抗うか……。残念だ」
ロギは口を閉ざすと、徐ろに腰を落とし、右の拳を引いた。
それは、少女にとって見覚えのある、そして、ロギを最強の武闘家たらしめた奥義の構えだった。
(まさかっ……!)
「町ごと壊すつもりですか!!」
「そうだ」
「待ってください! 町だけは……」
「もう遅い!」
言うや否や、ロギが猛火の剛拳を解き放つ。
迫り来る悪夢から自分、そして町を守る術を、少女は持たなかった。
(……葉さん……!)
直後、少女の目の前に飛び込んできた人影が、手に持った剣を地面に突き刺した。
響き渡る轟音。何かが猛火と衝突した衝撃で、少女は再び宙に飛ばされる。しかし、地面に落ちる直前、何者かに背中から抱えられる様な形で衝撃を免れた。
「大丈夫ですか!?」
「え……はい」
少女は何が起こったか理解が追いつかず、言葉がうまく出てこない。
「良かった。すみません、来るのが遅くなって」
「いえ。……それよりあなたは……」
「後で話します。取り敢えず彼を何とかしましょう」
自身が立つのを支えながら、ロギを見据えている少年。少女は、この少年こそ先ほど感じた、葉と同じ力を持つ人物であることに気づいた。
そして、背丈や顔は全く異なるものの、その少年の横顔に何故か葉の面影を感じ、少女は思わず何度か右手で目を擦った。