1−2 「BAD END」の真相 I
「お断りします」
「何っ!!」
心底驚いたような表情になる少女へ、正論を放つ。
「君が只者じゃないことは分かったけど、今は力を失っているんだろ? これだけ近づいても一切魔力を感じられないし」
「ええ。それに、元魔王だなんて名乗る魔族と、魔王を倒そうとしている私たちが組めるはずがないわ」
「ぐぬぬ……」
少女は数瞬の間、顔を歪めたものの、直ぐにハッとした表情を浮かべてから、とんでもない内容を口にした。
「そうか……。鮎川葉と、鈴村葵の居場所を知りたくないか……」
「なんだとっ!!」
カエデが声を荒げる。それもそのはずだ。今、少女が口にした名前。鈴村葵は、彼女の実弟なのだから。
そして、カエデだけでなく、俺も内心凄まじい動揺に襲われている。鮎川葉という名前によって。
俺たちがこの世界に飛ばされる直前に、俺の先代勇者であり、元の世界において、俺の唯一無二の親友であった葉が、3人の仲間と共に魔王との決戦に挑んだ。そして、その中には、カエデの実弟である葵もいた。
しかし、魔界の半分近くを焼け野原にする凄まじい戦闘の末、勇者パーティーは敗北。4人全員が行方不明となり、その結果、何者かによって新たな勇者とその仲間、即ち俺やカエデがこの世界に召喚された。
という話が、二年間、この世界で生きてきた俺たちが知り得た情報だ。葉が死ぬはずが無いという確信を持っている俺でさえ相当のショックを受けたのだから、実弟が行方不明と聞かされたカエデへの衝撃は筆舌に尽くし難かっただろう。実際、その話を始めて聞かされたカエデは、数日間、自室から一度も出てこなかった。
そしてこの二年間、俺たちはこの世界のありとあらゆる地域を巡ってきたが、最終決戦後の旧勇者パーティーに関する情報は何一つとして得ることが出来ていない。
それなのに、元魔王だというこの少女は、二人の「居場所」と言った。そして、俺たちの動揺を嘲笑うかの様な表情を浮かべている。
「どういうこと? 葵は無事なの?」
「二人は死んではおらん。いや、二人の肉体は死んでいない、と言った方が正しいか……」
「どういう意味?」
「……順を追って話そう。ただ、ダンジョンを出るのが先だ」
そういって少女は、カエデに向けていた視線を俺に移す。
「レン。手を繋げ」
「……は?」
「当たり前だろう! 我は魔力がない上に身体も小さい。ダンジョン内でお前たちから少しでも離れれば確実に即死だ」
強気なのか弱気なのかよく分からない少女を見ながら、気づく。
「来たるべき時を待つ為」だなんて言っていたけど、ひょっとしなくても、ダンジョンの最奥まで逃げ込んで、後戻り出来なくなっただけでは……。
……まあ、葉と葵君を見つける為に、余計な詮索は口に出さないでおこう。
「分かったよ。ほら」
「よし」
俺が差し出した手を、少女が握る。
思っていたより遥かに小さく、冷え切った手だ。
「カエデ。周りに防御壁は張っておくけど、片手使えないからフォロー頼む」
「……分かった」
腑に落ちない様子のカエデを一瞥してから、俺は部屋の扉に向けて歩き始めた。