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第七十七話 わんにゃんと車椅子の罠

「結局のところ、ユウお兄ちゃんがだらしなかったってだけなのでは?」


 そこはもうちょっと、独力で頑張ってほしかったな、って。マユさん厳しい。


「いやぁ、それでも結構怖いもんだぞ。外したらどうしようとか白けたらどうしようとか気まずくなったらもう会ってもらえないんじゃないかとか」


 一旦そう考えちゃうと、なかなか下手は打てなくてなぁ。


「それはみんな一緒なんじゃないかな。まぁ、相談するのも一つの手ではあると思うけど。それにしたって頼り過ぎっていうか」


「うーん。そうなのかなぁ。なにせ全く知らない相手のことだったからなぁ。これがマユ相手だったら色々すぐに浮かぶんだけど」


 確かに、ユキコさんありきではあったかもしれないけれど。


 元々、サポートは万全にするからって話だったんですよね。その流れ。


「ん? ユウお兄ちゃん、今なんて?」


 隣の席に腰を下ろしなおしたマユがピタリと動きを止めて、ぐるりと顔ごと俺の方へと振り返る。


「ん? マユが相手だったら、そういうこと考えずに済んだんだけどなって」


「ちょっと言い方変わってるよね? まぁいいけど。具体的にはどんな感じ?」


 具体的。具体的ねぇ……。


「そうだな……。マユの場合はわんにゃんフェスティバルを探して行くだろうな」


 俺達どっちも好きだからな。鳥も好きだけど、あんまり鳥単体ではやってない。


「ああ……行きたいなぁ。わんにゃんフェスティバル。行きたいなぁ。行きたい」


「お、おう……。そのうち、どっかでやってたらな」


 ヤダ……。マユさんマジで目が座っとる。こんなの断るとかムリじゃんね。


「やった! 約束だからね! ユウお兄ちゃん、ありがとっ!」


 うーん。この弾ける笑顔。プライスレス。


 今度どっかで開催してたら呼んでやろう。


「……ふーん。マユちゃん相手なら誰に相談しなくてもデートが出来ると。ユウ君は、マユちゃんの事ならなんでもご存知なんですねー?」


 先輩、大層不服そうなふくれっ面ですね。いっそ見事。


「先輩、そういう皮肉はやめてくださいよ。先輩とは、今からこうなっていければいいと思ってますから。こればっかりは仕方ないですよ。時間の問題ですから」


「うう……。もう三ヶ月も一緒に居るのに……」


 流石に二十年近くと三ヶ月じゃ……。いくら密度が濃くったって限度がある。


「それは今でこそですからね。今なら俺だって一人でそう言うの考えられますよ」


「ホントかなぁ……。どうせまた、ユキコにいいように言いくるめられるんじゃないの?」


 うわっ……私の信頼度、低すぎ……?


 それはもういいか。


「いやもう最近は行き先については聞いたりしてないですからね? 昔の話です」


「の割に、昨日の電話でもなんかそれっぽいこと言ってたけど」


 ……あったね。そんなことも。もうすっかり忘れてたよ。


「そうですよ。ユキコさん、酷いじゃないですか。なんですか昨夜のあれは」


 あれこそが冤罪だ! ここに日本の伝統芸、『遺憾の意』を表する!


「んー? なんか、その方が面白そうだったから?」


「やっぱりそんな理由かよ! この愉悦勢め! 先輩! もう遠慮なくやっちゃってください!」


 この悪びれる気ゼロの憎たらしい薄笑い! もう笑顔とか言ってやらん!


「えー。これが事実無根なら、鉄槌もやむなしだったけどさぁ……」


 あれ、先輩イマイチ制裁に乗り気でない。


「うぐ……。でも、最近はちゃんと自分で考えてますもん。ホントだよ」


「ユウお兄ちゃん。男のぶりっこはキモイだけだから」


「……マユさん厳しい……」


 トドメは、待ち構えていたマユさんが持っていきました。




「それでサヤカさん。あとどのぐらいの待ちなんですか?」


 ふと会話が途切れたタイミングで、マユは先輩に予約時間の確認を聞いていた。


 同時に口にしていたお茶のペットボトルの蓋を、きゅきゅっとしっかり締める。


「えーとね、待合スペースのモニタに表示されるって言ってた……あれかな?」


 見上げれば待合スペースの中央奥付近に大きなモニターが吊り下げられていて、そこにはこの体験会場のPVや関連企業のCMが延々と流されている。


 ぱっと見予約番号などを表示しているようには見えないが、見ればPVやCMの合間に映像が途切れたタイミングで予約番号を表示しているようだ。


 今確認してみたところ、我らが予約番号012番はあと二組待ち。


 画面では、予約番号011番までは体験ゾーンで待機するようにとのメッセージが表示されている。


 こりゃホントに意外と順番が回ってくるのが早いな。


 ここからは、画面の予約状況も気を付けてみておかないと。


「ですね。もうちょっとみたいです。それにしても、首都高カーチェイスか……。一体、どんな感じなんだろ」


 チェイサーである覆面パトカーを操作するにしては、座席にハンドルもアクセルもブレーキもなかった。


 VR操作ってのも考えられなくはないけど、あれはせいぜい出来てタップ程度。


 ということは多分、自分で車を操作するわけじゃないのだろう。


「んー、これはプレイアブルじゃないみたいだね。座ってただ体験するタイプか」


「すると、映画館の4DXとかあんな感じですかね?」


 最近、流行ってるよね。料金高いけど、その価値はあるって結構好評らしい。


 要するに覆面パトカーの助手席に座ってるとか、そんな感じなのかな?


「じゃないかなー? 他は座席についてるスティックとかを使うみたいだから」


「おおー。なんか、それっぽいぞ。コックピットはやっぱ操縦桿握りたいよね」


 スティックレバーもいいけど、スロットルレバーも一興だよね。


 できれば両方あるとなおグッド。


「コックピットはわかるけど。廃病院の奴はどうするんだろ……ああ、なるほど」


 先輩がテーブルに広げてくれたコンテンツガイドによると、恐怖の廃病院は体験者が車椅子に座った状態という設定で廃病院を探検するらしい。


 その車椅子の前進後退や左右反転に座席のレバーを使うみたいだ。


 てか、普通車椅子に乗ってまで廃病院の探検なんかしねぇよ!?


 この作中主人公、どんだけホラースポットが好きなんだよ!


「うーん。この突っ込みどころしかない感じ。事前に油断を誘ってるのか?」


 一見コミカルに見せておいて、中身がガチ。


 使い古されてる手だが、それだけ手堅い手法でもある。


「どう見てもこれツッコミ待ちだよね。……ねえ、ユウお兄ちゃん。私今、すっごくイヤな事に思い至っちゃったんだけど……」


「言ってみたまえ」


「車椅子ってことは、お化けが出ても逃げられない……」


「Oh……」


 だからマユさん、今すっごく苦々しい顔してるのね。


「なるほどね。そういうことか。確かに行動型でも実現できるんだろうけど、恐怖で体験者がパニックになってどっかに走り出したりしたら危ないもんね」


 なんせ、遮光ゴーグルを付けている。前なんか全く見えないし、見えても困る。


「そうまでして怖がらせようって気が満々なところに突っ込んでくキミ達もキミ達だと思うけどね」


「だって先輩。これ絶対面白いですよ。間違いないです」


 先輩だって、さっき選ぶ時にすっごい乗り気だったじゃないですか。


「うんうん。ユウ君、これは絶対にマストだよね。間違いない」


 ユキコさんも今の説明でコンテンツの趣旨が飲み込めたらしく、大いに乗り気。


「まぁねー。身動きが取れないお化け屋敷ってのがどれぐらい怖いのか。気にならないって言ったら嘘だよね。マユちゃん的にはこれやっぱムリ?」


「え? 私はそれが始まったらしばらくトイレから帰ってこないつもりですけど」


 それが何か? って堂々とボイコット宣言をしておる。


 マユさん、そういうエスケープは許しませんよ!


 やっぱ好き嫌いは、良くないよね?

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