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第五十八話 ナポリタン。それは喫茶店でのご定番

「で、ユウ君はどっちへ座る?」


 席がわかった途端、どっちに座るかの二択かよ。


「どっちって……。初対面同士を隣り合わせで座らせるのもアレですし、それなら俺がマユの方へ行きますよ」


 俺がそう答えると、ユキコさんはなかば納得したかのように頷いた。


「やっぱりねぇ……」


「やっぱりってなんですか。なんか対応おかしいです?」


「うーん。この状況なら、別にサヤカの方に座ったっていいんじゃない?」


 まぁ他の奴と一緒ならそれでもいいんだけど。マユとユキコさんって接点一つもないからな。いきなり隣じゃ可哀想ってもんだろう。


「まだよく知り合ってない段階って、お互いに持ってる情報まだ少ないですよね。その場合隣に座るより、斜向かいでお互いの表情見られた方が良くないですか?」


 そう言う意味でも、俺はマユの隣に座った方がいい気がしたんだけどな。


「うーん。まぁ、そう言う要素もあるわけか……。ユウ君も、一応いろいろ考えてはいるんだねぇ」


 なんだか、唸りながら評価してくるユキコさん。後半部分って要りました?


「一応ってなんですか。一応って。俺ぐらいになるとめっちゃ考えてますよ」


 ほら、今この瞬間だって超考えてるし。言葉に出さないだけで考えてるよ!


「その考えた割には、何だか対応がイマイチって話をこれからするんだよ」


「なんだかお説教みたいなのはやめてくださいね……。飯が不味くなりそうだ」


 そんで飯時にそう言う話はやめません?


 そういうのは酒入れてからしたほうがいいんじゃない?


 まぁ、俺の方は年齢的にはまだ不味いけど。家ならあんまり関係ない。


「ある意味では、お説教になっちゃうかもねぇ。ホントユウ君しっかりしてよ」


「これでもしっかりやってるつもりなんですけどね。まぁいいです、座りましょ」


 お待たせーと俺とユキコさんは、残った席へと腰を下ろす。


 先ほどの打ち合わせ通り俺はマユの、ユキコさんは先輩の隣。


「キミ達、随分仲良くやってたじゃないか。それも天下の往来で」


 と、座るなり先輩が俺のことをじっと睨む。


「アレを仲良くって言っちゃっていいんですかね。割りとガチなやつでしたけど」


 俺は顔の前で軽く手を振って、むしろ喧嘩していたと自供する。


「え、ユウ君アレってガチだった? 私てっきり……」


「てっきり、なんですか。言うなら最後までちゃんと言ってくださいよ」


 そう言うの、気になるだろ。言っちゃえよ!


「てっきり恥ずかしくって引っ込みがつかなくなっただけかと……」


「そう言う事実はないから。ないからね?」


 ……聞かなきゃ良かった。好奇心は猫を殺すね。


「そっかー。ないのかー。そうだよねぇ」


 なんですかそのニヤニヤは。ほんとにないんです。ないったらない!


「おっ? ユウ君なんかスベったの? キミも結構たまにやらかすからね」


「先輩? 結構たまにってなんですか。おかしな日本語使わない。俺はキレッキレで通ってるっていうのに何たる侮辱」


「ああ、それで逆ギレを……。確かにユウ君キレッキレだ」


「そうじゃねぇ。そうじゃないんですよ先輩よ……」


 くそっ! この先輩め。これわかってて言ってるな!


「それはともかくとして、私はどれを貰えばいいのかな?」


 見るとテーブルの上にはカップが四つ、載せられている。


 マユがひとまずということで買っておいてくれた飲み物か。


「ユキコさんの好みがちょっとわからなかったので、まずユキコさんからどうぞ」


 こちらの二つが紅茶で、こちらの二つがコーヒーですとマユがカップを分けている。どっちにも対応できるように両方混ぜて買ってきたってわけですね。


「そう? 悪いねー。じゃあ、私はコーヒーをもらおうかな」


 ユキコさんがマユからコーヒーを受け取ると、マユは続けて紅茶のカップを先輩に向けて差し出していく。


「では、サヤカさんは紅茶ですよね。どうぞ。ユウお兄ちゃんはどっちにする?」


 うむ。たった一日しか見ていないというのに、先輩が紅茶のほうが好きだとよく見ぬいたな。


 まぁ昨日は結局紅茶しか飲んでないから、コーヒーはそれほど好きじゃないと踏んだんだろうけど、それで正解だ。


 先輩は、あまり好んでコーヒーを飲まない人なのだ。かと言って、別に飲めないわけでもないけどね。


「んじゃ俺はコーヒーの方を貰おうかな。マユは、紅茶のほうがいいだろう?」


 マユはミルクティよりレモンティのような、スッキリした飲み物が好きなはず。


 ここはどっちでもいい俺がコーヒーを貰っておけば問題ない。


「そうだね。どっちでも大丈夫だけど、選べるなら紅茶かな?」


 ありがと、という言葉とともにマユが差し出すコーヒーのカップを受け取った。


 ええと砂糖とミルク……ああ、抜かりはないね。


 スティック一本とポーションを一つ、とりあえずで入れておく。


「さて、飲み物はこれでいいとして。それじゃお昼は何食べます?」


 と言っても、そんなに自由度があるわけでもないけれど。一応ね。


「わたしはパニーニにしようかなー。美味しそう」


「私は普通にサンドイッチがいいかな。BLTで」


「じゃー、私はホットドッグにしよっかな。オニオンたっぷりの奴がいい!」


「じゃあ俺はパンケーキということで。こんな感じでいいですか」


 全員で、レジの上の壁にかけられた写真メニューを見ながら決めていく。


「えっ?」


「ん?」


 俺がパンケーキと言った途端、ユキコさんの顔がこっちへ向いた。


「いや、今、パンケーキって」


「ええ。なんかおかしいとことかありました?」


「男の子がパンケーキ? ふわっふわのホイップクリームを載せちゃって?」


「いや別に、男が食べたっていいでしょう。ホイップクリームのパンケーキ」


 そういうの、今うるさいんですよ。男女差別って言いたいだけの奴が多くてね!


 だいたいが、男が甘味を食べて何が悪い。ぜんざいだってあんみつだって、あれば普通に食べるわい。


 まぁ、女性の甘味好きに付き合える男のほうが希少種だって言われちゃったらそれまでだけど。


「いやそりゃいいも悪いもないけどさ。なんか、意外って感じがしてさ」


「まぁ、俺が頼むのはパンケーキでも、ホイップクリームじゃない方ですからね。チーズとベーコンたっぷりの、いわゆるお食事パンケーキって奴ですよ」


 いつからか知らないけれど、こういうお食事系のパンケーキもいつの間にか市民権を得てたんだよね。


 チーズ系のパンケーキとか、正直ちょっと助かってる人も多いんじゃなかろうか。甘味が苦手な人は、男女問わず一定数居るからね。


 特に女性の場合、友達関係でもこういう店連れ回されるから苦手ってなかなか言い出せないんじゃないのかな。


「ああ、そっち系統ね。なるほどね。それなら男の子でも納得だ」


「まぁ、一番ガッツリ行けそうなのがそれだけだったというのもありますが」


「だよね。他はみんな軽食って感じだし」


 サンドイッチって、軽食だよね? おやつだよ!


「喫茶店ならナポリタンとかあるんでしょうけど。カフェじゃあね」


「まぁそうね。こういうところでナポリタンはなかなか無いかもね」


 あったとしたら、せっかくのオサレイメージが台無しだ。


 ナポリタンはナポリタンで良い料理だけど、あれは喫茶店で出されて初めて生きるタイプのメニューでしょ。


 むしろこんなオサレな店で出されたら、逆に興ざめってもんですよ。


「そういうことです。他に頼む物がなければ俺がまとめて行ってきちゃいますが。どうします?」


 注文するものが決まっているなら、三人や四人でぞろぞろレジまで行く必要もないだろう。


「ん、わたしはそれでいいかな」


「私も、サンドイッチだけでいいよ」


「じゃあ、適当なサラダでも頼めるかい?」


「了解しました。お嬢様方」


 俺はよろしくという各自の声に適当に手を上げて応えると、注文のためにレジへと向かった。

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